【企業の義務】健康診断の種類を一覧でチェック!診断項目や費用・注意点を解説

健康診断は、従業員の健康管理において重要な役割を果たすとともに、法令で定められた企業の義務です。企業が実施する健康診断にはさまざまな種類があるため、「どの健康診断をいつ実施すればよいのか」「費用はどのくらいかかるのか」といった疑問を抱える人事担当者も多いでしょう。

この記事では、企業が実施すべき健康診断の種類を一覧で紹介し、受診項目や費用、実施のタイミング、注意点などの基本情報を詳しく解説します。自社の健康診断計画を立てる際に、ぜひご活用ください。

1.企業の健康診断を一覧でチェック

健康診断は大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類があります。一般健康診断は、以下に該当する従業員を雇用するすべての企業に義務付けられており、特殊健康診断は有害業務に従事する従業員を雇用する企業に対して義務付けられています。

以下の表で、それぞれの概要をご確認ください。

一般健康診断
種類対象者/対象業務実施時期
雇入れ時健康診断常時使用する従業員・雇入れ(入社)の際
定期健康診断常時使用する従業員・1年以内ごとに1回(定期実施)
特殊業務従事者の健康診断安衛則第13条第1項第3号に掲げる特定業務に常時従事する従業員・当該業務へ配置替えの際・6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)
海外派遣労働者の健康診断海外に6ヶ月以上派遣する従業員・海外に6ヶ月以上派遣する際・帰国後国内業務に就かせる際
給食従業員の検便事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する従業員・雇入れ(入社)の際・当該業務へ配置替えの際
特殊健康診断
種類対象者/対象業務実施時期
じん肺健康診断じん肺則別表に掲げる粉じん作業従事者等・雇入れ(入社)の際・当該業務へ配置替えの際・業務の区分に応じ所定の期間以内ごとに1回(定期実施)
高気圧業務健康診断高圧室内業務または潜水業務
電離放射線健康診断エックス線、その他の電離放射線にさらされる業務
除染等電離放射線健康診断除染等業務
鉛健康診断鉛等を取扱う業務
四アルキル鉛健康診断四アルキル鉛の製造、混入、取扱いの業務
有機溶剤等健康診断屋内作業場等(第3種有機溶剤は、タンク等の内部に限る)における有機溶剤業務
特定化学物質健康診断安衛法施行令第22条第1項第3号の業務・安衛法施行令第22条第2項に掲げる物を過去に製造し、または取り扱っていたことのある従業員で現に使用しているもの(石綿等を除く)
石綿健康診断・石綿等の取り扱い、または試験研究のための製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務・過去に石綿等を製造、または取り扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に従事させたことのある従業員で現に使用しているもの
歯科医師による健康診断安衛法施行令第22条第3項に掲げる業務(歯または支持組織に有害なガス等を発散する場所における業務従事者)・雇入れ(入社)の際・当該業務へ配置替えの際・6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)

出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.68~

2.一般健康診断とは?種類と概要

一般健康診断は、労働安全衛生規則第43条~第47条に定められている健康診断です。ここでは、一般健康診断の種類と概要を解説します。

2-1 1.雇入れ時健康診断

雇入れ時健康診断とは、新たに採用した従業員の健康状態を確認するために実施する健康診断です。

  • 対象者:常時使用するすべての従業員
  • 実施時期:雇入れ(入社)の際 
  • 項目:以下の項目(ただし、従業員が入社前3ヶ月以内に受けた健康診断結果を提出したときは、当該健診項目に限り、省略可能)
出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.68

雇入れ時健康診断の詳細については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

関連記事:『【産業医監修】雇入れ時健康診断とは?受診時期や費用負担・実施の流れを解説

2-2 2.定期健康診断

定期健康診断とは、すべての従業員に毎年実施する健康診断です。

  • 対象者:常時使用するすべての従業員
  • 実施時期:1年以内ごとに1回(定期実施) 
  • 項目:以下の項目(ただし、1年以内に雇入れ時健康診断や海外派遣労働者の健康診断等を受診している場合は、受診済の同一項目に限り、省略可能)
出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.69

2-3 3.特定業務従事者の健康診断

特定業務従事者の健康診断とは、深夜業務や重量物取扱業務など、特定の業務に従事する従業員を対象とした健康診断です。

  • 対象者:安衛則第13条第1項第3号に掲げる特定業務に常時従事する従業員
  • 実施時期:当該業務へ配置替えの際および6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)
  • 項目:定期健康診断と同一項目(下記1を除く。)
  1. 胸部エックス線検査および喀痰検査は1年以内ごとに1回の定期実施で可。
  2. 前回の健康診断において、貧血検査・肝機能検査・血中脂質検査・血糖検査および心電図検査を受け、かつ医師が必要でないと認めるときは、当該項目のみ省略可。また、聴力検査は省略できないが、前回の健康診断においてオージオメーターを使用して検査を実施した場合は医師が認める方法に代える事が可能。
  3. その他の省略基準等については、定期健康診断と同じ。

出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.70〜

2-4 4.海外派遣労働者の健康診断

海外派遣労働者の健康診断とは、長期にわたって海外に派遣する従業員を対象とした健康診断です。

  • 対象者:海外に6ヶ月以上派遣する従業員
  • 実施時期:海外に6ヶ月以上派遣する際および帰国後国内業務に就かせる際 
  • 項目:以下の項目(ただし、2~6の検査については、医師が必要であると認める場合のみ実施で可)
  1. 定期健康診断と同一項目の検査(身長および喀痰検査については、医師の判断により、定期健康診断と同じ基準で省略可)
  2. 腹部画像検査
  3. 血液中の尿酸の量の検査
  4. B型肝炎ウイルス抗体検査
  5. ABO式およびRh式の血液型検査(海外派遣時に限る)
  6. 糞便塗抹検査(帰国時に限る)

出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.71

2-5 5.給食従業員の検便

給食従業員の検便とは、事業場の給食施設で調理業務に従事する従業員に実施する健康診断です。

  • 対象者:事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する従業員
  • 実施時期:雇入れ(入社)の際および当該業務へ配置替えの際
  • 項目:検便(伝染病保菌者発見のための細菌学的検査)

出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.71

3.特殊健康診断とは?種類と概要

特殊健康診断とは、労働安全衛生法第66条第2項~第3項に定められており、有害業務に従事する従業員に対して、特別の項目について実施しなければならない健康診断です。ここでは、特殊健康診断の種類と概要を解説します。

出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.73

3-1 1.有機溶剤等健康診断

有機溶剤等健康診断とは、有機溶剤中毒予防規則第29条に定められた健康診断です。

  • 対象者:屋内作業場等(第3種有機溶剤は、タンク等の内部に限る)における有機溶剤業務に従事中の従業員
  • 実施時期:雇入れ(入社)の際および当該業務へ配置替えの際、その後6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)
  • 項目:業務歴や作業条件の簡易な調査、有機溶剤による現在の自覚・他覚症状や健康障害の既往歴の調査、尿中の有機溶剤の代謝物の既往の検査結果の調査など

3-2 2.鉛健康診断

鉛健康診断とは、鉛中毒予防規則第53条に定められた健康診断です。

  • 対象者:鉛等を取扱う業務に従事中の従業員
  • 実施時期:雇入れ(入社)の際および当該業務へ配置替えの際、その後6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)
  • 項目:業務歴や作業条件の簡易な調査、鉛による現在の自覚・他覚症状や既往歴の調査、血液中の鉛や尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査など

3-3 3.特定化学物質健康診断

特定化学物質健康診断とは、特定化学物質障害予防規則第39条に定められた健康診断です。

  • 対象者:以下の業務に従事中の従業員
    • 安衛法施行令第22条第1項第3号の業務(石綿等を取り扱い、または試験研究のため製造する業務を除く)
    • 安衛法施行令第22条第2項に掲げる物(石綿等を除く)を過去に製造し、または取り扱っていたことのある従業員で現に使用しているもの
  • 実施時期:雇入れ(入社)の際および当該業務へ配置替えの際、その後定期的(6ヶ月以内ごと、物質によっては1年以内ごと)に1回
  • 項目:作業条件や化学物質によるばく露の状況の調査など物質によって項目は異なるため、詳細は特定化学物質障害予防規則の別表を参照

3-4 4.歯科医師による健康診断

歯科医師による健康診断とは、労働安全衛生規則第48条に定められた健康診断です。

  • 対象者:塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素(フッ化水素)、黄りんその他歯または支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務に常時従事する従業員
  • 実施時期:雇入れ(入社)の際および当該業務へ配置替えの際、その後6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)
  • 項目:業務歴・仕事内容などの問診、口腔顔面領域の皮ふ・粘膜の状況の診査など

3-5 5.その他の健康診断

その他にも、さまざまな有害業務に応じた健康診断があります。各法令や指針に基づいて実施時期や項目が定められており、業務の特性に応じた適切な健康管理が求められています。

なお、石綿や特定の化学物質を取り扱う業務に従事していた従業員に対しては、業務終了後も原則6ヶ月ごとに1回(物質によっては1年以内ごとに1回)、定期的に特殊健康診断を実施する義務があります。

VDT作業、騒音作業などの特定の業務については、それぞれ特定の項目について健康診断を実施するよう指針・通達が出されています(行政指導による健康診断)。詳細は、東京産業保健総合支援センターの『労働衛生のハンドブック(PDF)』で解説されているため、あわせてご確認ください。

出典:『労働衛生のハンドブック(PDF)』東京産業保健総合支援センター P.74-75

4.各健康診断の項目

健康診断の項目は、実施する診断の種類によって異なります。一般健康診断では、身長・体重・血圧測定、視力・聴力検査、尿検査、血液検査、心電図・胸部エックス線検査などが基本項目です。一方、特殊健康診断では、有害物質の影響を確認するための特別の検査が行われます。

年齢によっては一部項目が省略可能な場合もあるため、詳細は保健師・産業医に相談しましょう。健康診断の適切な実施には専門的な判断が必要となるため、自社の状況に合わせた健康診断を行うために、保健師・産業医の助言を受けることをおすすめします。

5.健康診断の費用

健康診断の費用は、医療機関によって異なります。一般健康診断は5,000~15,000円、特殊健康診断は業務内容に応じて3,000~10,000円程度が目安です。費用は企業負担ですが、がん検診や脳ドックなどのオプション検査は従業員の自己負担となることが一般的です。

また、健康診断受診時間の賃金を支払うかどうかについて、一般健康診断は企業の判断に委ねられています。厚生労働省は「円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」と示しているため、判断の参考にしましょう。一方、特殊健康診断は労働時間となるため、企業は賃金を支払う義務があります。両者の賃金支払いに関する考え方の違いに注意が必要です。

出典:『健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?』厚生労働省

6.健康診断を実施する際の注意点

企業が健康診断を実施する際には、単に受診を手配するだけでなく、適切な管理や従業員への対応も重要です。ここでは、健康診断を実施する際の注意すべきポイントを紹介します。

6-1 健診実施の事後措置

健康診断の実施後は、結果を適切に記録し、必要に応じて保健師・産業医の意見を取り入れながら対応を行うことが重要です。異常所見があった場合には、対象従業員に速やかに通知し、再検査や医療機関の受診を促しましょう。

また、業務上の配慮が必要な場合には、作業の転換や時短勤務など、健康管理措置を講じることが求められます。健康診断結果を有効活用し、保健師・産業医と連携しながら従業員の健康維持に努めましょう。

6-2 条件を満たせばパート・アルバイトも健康診断が必要

健康診断は、パートやアルバイトであっても、以下の両方の条件を満たす従業員であれば、雇用形態にかかわらず受診させる義務があります。

  1. 「雇用期間の定めのない者」または「雇用期間の定めはあるが1年以上の雇用見込がある者」
  2. 1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上であること

なお、所定労働時間が4分の3未満であっても、概ね2分の1以上であれば実施することが望ましいとされています。

6-3 健康診断情報は適切に取り扱う

健康診断結果は機密性の高い個人情報であり、適切な管理が求められます。閲覧権限を制限し、必要な関係者のみが確認できる仕組みを整えることが重要です。

また、診断結果は「健康診断個人票」に記録し、5年間の保存義務があります。紛失や漏洩を防ぐためにも、社内で管理ルールを明確にし、健康情報等取扱規程を作成して運用すると良いでしょう。

健康情報等取扱規程の詳細については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

関連記事:『【産業医監修】健康情報等取扱規程とは?策定の目的や9つの内容を解説・ひな形つき

6-4 従業員への案内を丁寧に行う

健康診断を円滑に実施するためには、従業員への事前案内が欠かせません。所要時間や必要な持ち物、受診前の飲食制限などの情報を明確に伝え、滞りなく受診できるようサポートしましょう。

さらに、健康診断に関するよくある質問をまとめた資料を用意しておくと、従業員の疑問を解消し、安心して受診できる環境を整えられます。事前準備を徹底し、従業員の負担を軽減することが、スムーズな健康診断の実施につながります。

まとめ 従業員の健康管理を万全に!健康診断を適切に実施しましょう

企業における健康診断は、従業員の健康を守る重要な制度です。一般健康診断と特殊健康診断の違いを理解し、適切に実施しましょう。判断に迷った際は、産業保健師や産業医などの専門家に相談することで、自社の状況に合った健康診断の進め方を確認できます。

【この記事のまとめ】

・健康診断は、「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類がある
・健康診断の種類によって対象者・実施時期・項目が異なる
・健康診断実施後の措置や情報の取り扱いにも注意が必要

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企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央 /oneself.産業保健師一同


小橋 正樹

監修小橋 正樹

株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医

2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。


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