【産業医監修】健康情報等取扱規程とは?策定の目的や9つの内容を解説・ひな形つき
健康情報等取扱規程は、健康管理が注目される現代において非常に重要な規程の1つです。企業は、個人情報保護の観点からも従業員の健康情報を適切に管理し、取り扱わなくてはなりません。しかし、この規程の詳細について不明点を抱える人事担当者も少なくないでしょう。
この記事では、健康情報等取扱規程の概要や策定の目的、具体的な内容を分かりやすく解説します。ひな形もダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
1.健康情報等取扱規程の義務とは
健康情報等取扱規程とは、企業が従業員の健康情報を適切に管理するために定めるルールです。これは、2019年4月の労働安全衛生法改正を受けて、厚生労働省が公表した『労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針』に基づき、策定が推奨されています。
ただし、あくまで指針に基づくものであり、労働安全衛生法には健康情報等取扱規程の作成義務を明記する条文は存在しません。規程の作成は法的な義務ではなく、企業の任意となります。
しかし、健康情報がとくに慎重に取り扱うべき「要配慮個人情報※1」に該当することからも、企業には自主的な規程策定が強く求められているといえるでしょう。
※1:要配慮個人情報とは、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報のこと
出典:『個人情報の保護に関する法律』e-GOV
1-1.労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針とは
『労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針』は、健康情報等取扱規程の策定や運用に関する基本事項を定めたものです。企業は、情報の範囲や開示、周知方法など、指針に示された9つの事項を含めて、自社の状況に合わせた健康情報等取扱規程の策定を行います。
1-2.健康情報等とは何を指す?
「健康情報等」とは、従業員の心身の状態に関する情報のうち、個人情報保護法で「要配慮個人情報」として定義されるものを指します。大きく分けて以下の3つに分類されます。
なお、健康情報等の3つの分類それぞれの具体例は以下のとおりです。
【1】労働安全衛生法令に基づき事業者が直接取り扱うこととされており、労働安全衛生法令に定める義務を履行するために、事業者が必ず取り扱わなければならない健康情報等
- 健康診断の受診・未受診情報
- 長時間労働者による面接指導の申出の有無
- ストレスチェックの結果に基づく高ストレス者による面接指導の申出の有無
- 健康診断および長時間労働者・高ストレス者の面接指導の事後措置について医師から聴取した意見、企業が講じた措置内容 など
【2】労働安全衛生法令に基づき事業者が労働者本人の同意を得ずに収集することが可能であるが、事業場ごとの取扱規程により事業者等の内部における適正な取扱いを定めて運用することが適当である健康情報等
- 健康診断および再検査の法定項目の結果
- 法令に基づく保健指導の実施の有無、結果
- 長時間労働者に対する面接指導の結果
- ストレスチェックの結果に基づく高ストレス者に対する面接指導の結果
- 法令に基づく健康相談の実施の有無、結果 など
【3】労働安全衛生法令において事業者が直接取り扱うことについて規定されていないため、あらかじめ労働者本人の同意を得ることが必要であり、事業場ごとの取扱規程により事業者等の内部における適正な取扱いを定めて運用することが必要である健康情報等
- 健康診断および再検査の法定外項目の結果
- 法令に基づかない保健指導の結果
- 健康診断の精密検査の結果
- がん検診の結果
- 治療と仕事の両立支援等のための医師の意見書
- 通院状況等疾病管理のための情報
- 法令に基づかない健康相談の結果
- 職場復帰のための面談の結果
- 産業保健業務従事者が労働者の健康管理等を通じて得た情報
- 任意に労働者から提供された本人の病歴、健康に関する情報 など
出典:『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(PDF)』厚生労働省 P.7
1-3.健康情報等取扱規程を策定する目的
企業が健康情報等取扱規程を策定する目的は、従業員の健康と安全を守るために、健康情報を適切に管理することです。指針では、健康情報等取扱規程について次のように規定されています。
「心身の状態の情報が、労働者の健康確保措置の実施や事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行の目的の範囲内で適正に使用され、事業者による労働者の健康確保措置が十全に行われるよう、事業者は、当該事業場における取扱規程を定め、労使で共有することが必要である。」
出典:『労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針』厚生労働省 P.2
企業は、従業員に対する安全配慮義務を負っており、健康情報の適切な管理はその一環です。企業は、従業員の心身の状態を正確に把握し、必要な健康管理措置を講じなければなりません。また、策定した規程を従業員に周知し、安心して働ける環境を提供することが求められています。
2.健康情報等取扱規程で策定する内容
健康情報等取扱規程では、以下の9項目を定めることを推奨しています。
(2)健康情報等を取り扱う者と権限・取り扱う健康情報等の範囲
(7)事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
2-1.(1)健康情報等を取り扱う目的と取扱方法
健康情報等取扱規程では、健康情報等を取り扱う目的を明確に示すことが重要です。例えば、以下のような目的があります。
- 健康診断やストレスチェックの結果の管理
- 長時間労働者に対する医師による面接指導やその後の措置の実施
- 傷病や疾病のある従業員に対する就業上の措置の検討と実施
- 治療と仕事の両立支援の実施
また、健康情報等の取扱方法として、以下のような方法が挙げられます。
出典:『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(PDF)』厚生労働省 P.4
2-2.(2)健康情報等を取り扱う者と権限・取り扱う健康情報等の範囲
健康情報等を取り扱う者と、それぞれが取り扱う健康情報等の範囲を定めます。健康情報等を取り扱う者は次のとおりです。
- 人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者(社長、役員、人事部長など)
- 産業保健業務従事者(産業医、保健師、衛生管理者など)
- 管理監督者(従業員の所属長)
- 人事部門の事務担当者(人事部長以外の人事担当者)
医師や保健師など職種として法令上の守秘義務が課されている者以外も健康情報等を取り扱うため、健康情報等取扱規程において取り扱う者の権限と取り扱う健康情報等の範囲を事前に取り決めておくことが望ましいです。また、健康情報等を取り扱う業務を外部の産業保健サービスなどに委託する場合、委託先が規程に従って業務を遂行できるよう、委託契約や秘密保持契約を結ぶことが重要です。
担当者が健康情報等を取り扱う権限の範囲は一般的に以下のようなイメージとなります。
◎:直接取り扱う必要がある者
◯:一般に取り扱うことが想定される者
△:事業場や企業の状況に応じて、取り扱うことが想定される者
出典:『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(PDF)』厚生労働省 P.8
なお、取り扱う健康情報等の具体例については「健康情報等とは何を指す?」をご参照ください。
2-3.(3)健康情報等を取り扱う目的等の通知方法と本人の同意取得
健康情報等を取り扱う際には、従業員に対してその目的を明確に示し、同意を得る必要があります。具体的な通知・公表方法としては以下が挙げられます。
- 社内イントラネットでの掲載
- パンフレットの配布
- 事業場の担当窓口の備付け
- 掲示板への掲示
- 一斉メール配信
- 書面での交付
また、本人の同意取得方法としては、以下のような方法があります。
- 口頭・メールでの同意の意思表示
- 書面による同意書の受領
- 電子的な同意フォームの利用
- ホームページ上のボタンのクリック
いずれの場合も、目的や取扱方法を明確に示し、従業員が十分に理解したうえで同意を得ることが大切です。
2-4.(4)健康情報等の適正管理の方法
「適正管理」とは、情報を正確かつ安全に管理することです。具体的には、以下の3つの状態が実現されている状態を指します。
- 個人データを正確かつ最新の状態に保つこと
- 漏えい・滅失・改ざんを防ぐため、安全な管理体制を整えること
- 健康診断の結果等、法令により保存期間が定められているものを除き、不要になったデータは速やかに(もしくは、遅滞なく)消去すること
健康情報等の適正管理を行うため、企業は次の対策を施し、情報漏洩や不正アクセスを防止しなければなりません。
- データの暗号化
- アクセス権限の設定・アクセス記録の保存と定期的な見直し
- 定期的なバックアップの実施
- ソフトウェアのウイルス対策
- 物理的なセキュリティ対策(施錠管理など)
- 問題が発生した場合の報告連絡体制の整備
- 個人情報保護に関する規程の整備
- 健康情報等を取り扱う者に対する従業員教育の実施
これらの対策を組み合わせることで、健康情報等の安全な管理が可能になるでしょう。
2-5.(5)健康情報等の開示、訂正等の方法
従業員から「保有個人データ」の開示や訂正等の請求があった場合、企業には適切な対応が求められます。情報の開示や訂正が必要になる場面としては、以下のようなケースが考えられます。
- 従業員本人から健康診断結果の開示請求があった場合
- 健康情報に誤りがあり、訂正を求められた場合
- 過去の健康情報の削除を要求された場合
従業員からの要求に適切かつ迅速に対応するため、開示請求の手続き、訂正・削除の方法、対応の期限などを明確に定めておかなければなりません。
2-6.(6)健康情報等の第三者提供の方法
健康情報等を第三者に提供する際は、原則として本人の同意が必要です。企業は、個人データを第三者に提供したときは、以下の事項について、文書やデータなどで記録を作成し、保存しなければなりません。
- 従業員本人の同意を得ている旨
- 第三者の氏名又は名称、その他の当該第三者を特定できる事項
- 個人データによって識別される従業員本人の氏名その他本人を特定できる事項
- 個人データの項目
ただし、以下のような場合は第三者提供に該当しないため、本人の同意なしに情報を共有できます。
出典:『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(PDF)』厚生労働省 P.17
2-7.(7)事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
事業承継や合併、組織変更などが発生した場合、健康情報等の引継ぎが必要です。安全管理措置を講じたうえで、適切に情報を管理するための対応方法を規程に定めておきましょう。
事業承継前の利用目的の範囲内であれば、従業員本人の同意を再度取得する必要はありません。ただし、承継後にその範囲を超えて個人情報を利用する場合は、事前に従業員本人の同意を得る必要があります。
2-8.(8)健康情報等の取扱いに関する苦情処理
健康情報等の取扱いに関する苦情が発生した場合、企業は迅速に対応しなければなりません。苦情に適切に対応するため、従業員が相談しやすい体制を整備し、健康情報等取扱規程には苦情処理窓口の連絡先や手続き手順を定めておきましょう。
なお、苦情処理窓口は、社内の人事部門や総務部門が対応するケースのほか、産業保健スタッフや外部機関に委託する方法もあります。
2-9.(9)取扱規程の従業員への周知の方法
健康情報等取扱規程の内容は全従業員に周知し、適切に運用されるよう徹底することが重要です。周知方法として次の手段が考えられます。
- 作業場の見やすい場所に掲示・備え付け
- 社内メールやイントラネットへの掲載
- パンフレットや冊子として配布
- 社内研修や部門ごとの説明会での周知
これらの方法を複数組み合わせることで、規程の内容を確実に従業員へ周知できるでしょう。
3.健康情報等取扱規程の作り方
健康情報等取扱規程は、企業の規模に応じて作成方法が異なります。ここでは、従業員数50人以上と50人未満の場合に分けて解説します。
出典:『事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き(PDF)』厚生労働省 P.3
3-1.従業員50人以上の場合
従業員50人以上の事業場では、衛生管理者や産業医の選任と衛生委員会の設置が義務付けられています。衛生委員会とは、従業員の健康障害の防止や健康の保持増進に関する重要事項を調査審議する社内機関です。健康情報等取扱規程の策定にあたっては、一般的に以下の手順を踏みます。
- 衛生管理者もしくは人事部門が原案を作成
- 産業保健師や産業医の意見を聴取
- 衛生委員会で審議(複数回の審議が必要な場合もあります)
- 必要に応じて修正を加え、最終版を決定
- 全従業員に周知
衛生委員会の詳細については、こちらの記事もあわせてご参照ください。
『【産業医監修】衛生委員会とは?設置基準やメンバーと役割・進め方を解説』
産業医や衛生管理者の役割や選任基準などは、こちらの記事で解説しています。
『産業医は何をする人?人事担当なら知っておきたい産業医の基礎知識』
3-2.従業員50人未満の場合
従業員50人未満の事業場では、衛生管理者・産業医の選任義務や衛生委員会の設置義務がありません。しかし、小規模事業場であっても、従業員の健康情報を適切に管理することは重要です。そのため、従業員の意見を聴くための機会を設け、産業保健師や産業医などの外部リソースを活用しながら、実効性のある健康情報等取扱規程を作成しましょう。
4.【ダウンロード資料】健康情報等取扱規程のひな形
株式会社oneself.では、健康情報等取扱規程オリジナルのひな形をご用意しています。こちらのひな型を参考に、自社に合わせてカスタマイズしてお使いください。
健康情報等の取扱に関するトラブルを避けるため、運用に際しては、社会保険労務士や産業保健スタッフのサポートを受けながら、企業の実情に合わせて権限を明確に設定し、最適な規程を作成することをおすすめします。
5.自社に最適な健康情報等取扱規程を整備しましょう
健康情報等取扱規程は、従業員の健康情報を適切に管理し、企業としての信頼性を高めるために重要な役割を果たします。この記事で紹介した内容やひな形を参考に、自社の状況に合わせた規程づくりを進めてみてはいかがでしょうか。
【この記事のまとめ】
・健康情報等取扱規程とは、従業員の健康情報を適切に管理するためのルール
・厚生労働省が公表した指針に沿って策定が推奨されている
・規程には指針で示された9つの項目を含めて策定する必要がある
株式会社oneself.では、保健師・産業医の専門チームが企業の健康管理を伴走支援する「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供しています。チャットでいつでも産業保健のプロに相談し放題。自社に最適な健康情報等取扱規程を整備するために、ぜひご活用ください。
企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央 /oneself.産業保健師一同
監修小橋 正樹
株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医
2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。