【産業医監修】健康経営とは?中小企業が取り組むメリットや進め方を解説

近年、健康経営という言葉を耳にする機会が増えてきており、大企業だけでなく中小企業でも健康経営への関心が高まっています。しかし、具体的な取り組み方や重要性を十分に理解している企業はまだ少ないかもしれません。

この記事では、健康経営の基本概念や歴史、取り組むメリットと実践方法、そして中小企業の成功事例まで詳しく解説します。

1.健康経営とは

出典:『健康経営とは』ACTION!健康経営

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践することです。単なる福利厚生ではなく、企業の生産性向上や競争力強化を目指す重要な経営戦略の1つとして位置づけられています。

健康経営の特徴は、従業員の健康を「コスト」ではなく「投資」として捉える点です。企業理念に基づいて健康投資を行うことで、従業員の満足度や活力向上だけでなく、企業の成長ポテンシャルやイノベーションの拡大により、企業価値向上にもつながると考えられています。

中小企業においても、健康経営の取り組みは優秀な人材の確保や離職率の低下、知名度の向上など、多くのメリットをもたらす可能性があります。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

2.健康経営の歴史とあゆみ

出典:『健康経営とは』ACTION!健康経営


健康経営の概念は、1992年にアメリカの経営心理学者ロバート・H・ローゼン博士によって、著書「The Healthy Company」内で提唱されたのが起源です。日本では、2006年にNPO法人健康経営研究会が発足し、健康経営が定義されましたが、本格的に推進されるようになったのは2014年からです。以下に、健康経営の主な歩みをまとめました。

健康経営の歩み
2014年度経済産業省が健康経営度調査開始、「健康経営銘柄」を初認定
2015年度「日本健康会議」が発足
2016年度「健康経営優良法人(大規模法人専門・ホワイト500)」認定開始 「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」認定開始
2020年度「健康経営優良法人(中小規模法人部門・ブライト500)」認定開始
2022年度健康経営優良法人認定制度が補助事業化(日本経済新聞社)

この10年間で健康経営は徐々に浸透し、多くの企業が取り組むようになりました。とくに近年は中小企業の間でも関心が高まっており、その成果が注目されています。

3.健康経営を理解するうえでおさえたい基本用語

健康経営に関連する用語は数多くありますが、とくに重要な基本用語を解説します。基本用語を理解することで、健康経営の全体像をより明確に把握できるでしょう。以下に、よく使われる用語を一覧表でまとめました。

用語説明
健康経営度調査企業の健康経営への取り組みを評価する調査
健康経営優良法人認定制度健康経営に優れた企業を認定する制度
健康経営銘柄上場企業の中で健康経営に優れた企業を選定する制度
健康経営研究会健康経営の普及・啓発を行うNPO法人
日本健康会議健康寿命の延伸と適正な医療費の実現を目指す活動体
健康宣言事業企業が従業員の健康づくりに取り組むことを宣言する事業

3-1.健康経営度調査

健康経営度調査とは、企業の健康経営への取組状況と経年での変化を分析するものです。この調査は経済産業省が実施しており、健康経営に取り組む企業の実態把握と、健康経営銘柄の選定や健康経営優良法人の認定のための基礎情報を得ることを目的としています。

調査の結果は各企業にフィードバックされます。健康経営を実践するための重視ポイントと、自社の強みや弱みを把握するための貴重な資料となるでしょう。

調査への回答は、毎年8月から10月頃にかけてオンラインで行われます。詳細なスケジュールや回答方法、問い合わせ先については、健康経営優良法人認定事務局ポータルサイト『ACTION!健康経営』より確認できます。

出典:『健康経営度調査について』経済産業省

3-2.健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度は、優良な健康経営を実践している企業や団体を褒賞する制度です。2016年度に開始され、大規模法人部門と中小規模法人部門に分かれています。

認定を受けるためには、「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」「法令遵守・リスクマネジメント」の5つの領域で一定の基準を満たさなければなりません。認定されると、認定マークを使用でき、企業イメージの向上や優秀な人材の確保など、さまざまなメリットがあります。

とくに優れた企業は「ホワイト500」(大規模法人部門)や「ブライト500」(中小規模法人部門)に認定され、認定企業は、経済産業省『健康経営優良法人認定制度』で公開されている事例集で確認できます。

近年、健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定企業数は、以下の通り増加傾向です。中小企業においても健康経営の重要性が認識され、積極的に取り組む企業が増えていることがわかります。

出典:『健康経営の推進について(PDF)』経済産業省 P.23

3-3.健康経営銘柄

健康経営銘柄は、東京証券取引所の上場企業の中から、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営」に優れた企業として選定・公表する仕組みです。2014年度から始まった制度で、健康経営の普及促進を目的としています。

健康経営度調査に回答した上場企業の中から、回答内容と財務指標等を踏まえて総合的に評価を行い、業種ごとに優れた企業を選出します。

直近の健康経営銘柄選定企業は、経済産業省『健康経営銘柄』で公開されており、各企業の取り組み内容を詳しく紹介したレポートも閲覧できます。開示内容から具体的な施策や成果、課題などを知ることができ、中小企業にとっても自社の健康経営を推進する際の参考になるでしょう。

3-4.健康経営研究会

健康経営研究会は、2006年に設立されたNPO法人で、日本で健康経営が広く知られるようになる以前から活動を続けてきた団体です。健康経営の概念の普及・啓発や、企業の健康経営実践のサポートを主な活動としています。

研究会の活動は、健康経営に関する調査研究、情報発信、セミナーやイベントの開催など多岐にわたります。また、「健康経営」という言葉の商標登録も行っており、日本での健康経営の概念の発展に大きく貢献してきました。

健康経営の歴史と共に歩んできた団体として、その知見や経験は中小企業が健康経営に取り組む際の参考となるでしょう。

出典:『健康経営研究会について』健康経営研究会

3-5.日本健康会議

日本健康会議は、少子高齢化が進む日本において、国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療の実現を目指す活動体です。経済団体や医療関係団体、保険者などの民間組織や自治体が連携し、健康増進の取り組みを行っています。

主な活動として、健康増進や予防・健康管理に関する取り組みを推進するための目標「健康づくりに取り組む5つの実行宣言」を策定し、達成に向けた活動を実施しています。

また、日本健康会議の活動は、企業の健康経営推進にも大きな影響を与えています。2022年から2023年頃には、健康経営優良法人認定の運営が民営化されたことに伴い、日本健康会議も認定に携わるようになりました。

出典:『日本健康会議データポータル』日本健康会議

3-6.健康宣言事業

健康宣言事業は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合などの各保険者が実施している制度です。健康宣言を行う企業の健康づくりを支援して、加入者の健康の保持増進を図ることを目的としています。

また、健康宣言事業への参加は、とくに中小規模法人部門の健康経営優良法人認定において重要な要件となっています。ただし、具体的な内容や実施方法は保険者によって異なるため、自社が加入している保険者に確認することをおすすめします。

なお、ここで説明した健康宣言事業は、企業が独自に行う「健康宣言」とは異なるため注意してください。

出典:『健康宣言』全国健康保険協会

4.中小企業が健康経営に取り組むメリット

健康経営は、大企業だけでなく中小企業にとっても多くのメリットがあります。ここでは、主なメリットについて、それぞれのポイントを紹介します。

4-1.生産性の向上

健康経営に取り組むことで、従業員の心身の健康が改善され、生産性の向上が期待できます。とくに注目すべきは、プレゼンティーイズムの改善です。プレゼンティーイズムとは、出勤はしているものの心身の不調により本来の能力を発揮できない状態を指します。

従業員の健康管理を通じて、不調の兆候を早期に発見し対応できれば、個人のパフォーマンスが上がり、企業全体の生産性の向上にもつながるでしょう。

4-2.企業ブランディングの強化

健康経営に積極的に取り組む企業は、社会的評価が高まり、企業イメージの向上につながります。取引先や投資家をはじめとするステークホルダーに対しても説明責任を果たせるでしょう。

また、健康経営はSDGsやESG投資の観点からもメリットがあり、とくにESG投資のS(Social:社会)と密接な関わりがあり、SDGsでは「3.すべての人に健康と福祉を」「8.働きがいも経済成長も」の目標に非常に近い取り組みです。近年、関心が高まる健康経営の実践は、中小企業にとっても企業ブランディングを強化するための重要な手段となります。

4-3.人材採用・定着の促進

健康経営に取り組む企業は、従業員を大切にする企業として認識されるため、優秀な人材の採用に有利に働くでしょう。とくに若い世代の間では、企業の健康への取り組みを重視する傾向が強まっています。

また、既存の従業員に対しても、健康経営は働きやすい職場環境の提供につながるため、離職防止に効果があります。以下の通り、健康経営度調査では、健康経営度の高い企業のほうが離職率が低いというデータも出ています。中小企業にとって、人材の確保と定着は重要な課題ですが、健康経営はその解決策の1つとなり得るのです。

出典:『健康経営の推進について』経済産業省 P.38

4-4.医療費削減

健康経営を推進することで、従業員の健康状態が改善されると、医療費の削減効果が期待できます。東京大学などが土木建築業種の大企業に対し行った健康経営に関する調査では、以下の通り、年間医療費平均において高スコア群が低スコア群を下回る結果が示されています。

健康保険料率は毎年保険者の財政状況によって改定されるため、医療費の削減は企業の保険料負担の軽減にもつながるでしょう。

出典:『健康経営の推進について』経済産業省 P.37

また、労災保険料率は業種ごとに定められており、個別企業の取り組みだけで直接的に変更されるわけではありません。しかし、業界全体で健康経営が進み、労働災害リスクが低減すれば、長期的には料率の見直しにつながる可能性もあります。

4-5.リスクマネジメント

健康経営は、企業のリスクマネジメントにおいても重要な役割を果たします。従業員の健康を守らなければ、療養のために長期間休職する方やメンタルヘルス不調によって休職する従業員が増え、企業の生産性低下につながるリスクもあるでしょう。

また、健康経営を推進すれば労働災害や過労による事故を未然に防ぎやすくなり、法的リスクや評判リスクの低減も期待できます。適切なリスクの特定と管理を行うことで、企業は予期せぬ事態に対する耐性を高め、安定した経営基盤を築くことが可能です。

4-6.認定制度のインセンティブ

健康経営優良法人に認定されると、国や自治体、金融機関などからさまざまなインセンティブを受けられます。まず、「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が許可され、企業のPRに活用できます。

また、公共調達の入札時の加点や融資時の金利優遇、保険料の割引といったメリットもあり、企業の競争力を高め、より多くのビジネスチャンスを獲得する可能性が広がります。インセンティブの内容は地域や金融機関によって異なるため、詳細は以下を参考にしてください。

出典:
*1『補助金・インセンティブ 国の取り組み』ACTION!健康経営
*2『補助金・インセンティブ 地域の取り組み』ACTION!健康経営

4-7.メンタルヘルス対策

健康経営は、メンタルヘルス対策としても非常に効果的です。中小企業において、従業員のメンタルヘルスの問題は生産性の低下や離職率の上昇といったリスクを伴います。健康経営に取り組むことで、メンタルヘルス対策を強化し、従業員が働きやすい環境を整えられるでしょう。

例えば、従業員相談窓口の開設や休職・復職制度の整備などの対策をはじめ、従業員同士でのウォーキングイベントの実施、健康的な食事を提供する社員食堂の設置など、従業員が安心して働ける職場環境を構築することが重要です。これらの施策は、従業員同士のコミュニケーションを活性化させるためにも有効です。

メンタルヘルス対策については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

関連記事:『メンタルヘルスとは?職場でできる支援方法や企業事例を紹介

5.健康経営に取り組む際の注意点

健康経営には多くのメリットがありますが、取り組む際にはいくつかの注意点があります。ここでは、具体的な注意点を解説します。

5-1.健康経営の理解・浸透が難しい

健康経営を導入する際の最初の障壁は、その目的を経営者や従業員に十分に理解してもらうことです。経営者からは、「売上に直接関係しないのではないか」「優先順位が低いのではないか」といった疑問が生じるかもしれません。また、従業員からは、「手間が増える」「個人の健康情報が知られるのは不安だ」といった意見が出る可能性があります。

これらの誤解や抵抗感を解消するためには、健康経営の意義や効果を丁寧に説明し、全社的な理解を得ることが重要です。経営者には長期的な企業価値の向上につながると根拠をもって説明しつつ、従業員には自身の健康増進や働きやすい職場環境の実現につながる点を強調するなど、それぞれの立場に応じた説明を行いましょう。

5-2.投資効果が見えづらい

健康経営は、短期間で効果が現れるものではなく、明確な数値で成果を示すことが難しい場合も多いです。そのため、「投資に見合う成果が得られるのか」といった疑問が生じやすくなります。

対策としては、中長期的な目標を設定し、健康診断の有所見率の改善や従業員満足度の向上、欠勤率の低下といった具体的な指標を用いることが重要です。これに基づき、定期的に評価・改善のサイクルを確立すると、健康経営の進捗を見える化できます。また、従業員へのアンケートや個別ヒアリングを通じて、数値では捉えにくい変化や効果を把握すると良いでしょう。

5-3.健康経営のデータ・情報収集に手間がかかる

健康経営を効果的に進めるには、健康診断結果や施策の実施状況など、さまざまなデータを収集・分析し、継続的に更新する必要があります。しかし、これには多くの時間と労力がかかるため、とくに中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。

まずは既存の健康診断データを活用し、段階的に収集範囲を広げるなど、無理のない方法で進めることがおすすめです。また、産業保健師や産業医など専門家のサポートを活用すると、効率的なデータ収集と分析が期待できるでしょう。

6.健康経営の具体的な取り組み方法

具体的に健康経営を推進するためには、何から取り組めば良いでしょうか。ここでは、健康経営の具体的な取り組み方法について、ステップごとに解説します。

出典:『健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)認定要件』ACTION!健康経営

6-1.経営理念・方針

健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定要件の1つ目は、「経営理念・方針」の設定です。経営陣が健康経営の意義を理解した上で、健康経営への取り組みを社内外に向けて発信を行い、経営者自身も健診受診を行います。原則として保険者の健康宣言事業への参加が必須となりますが、加入している保険者が健康宣言事業を実施していない場合のみ、各自治体が実施する健康宣言事業か自社独自の健康宣言の実施をもって代替することが可能です。

6-2.組織体制

健康経営優良法人の認定を受けるための次のステップは、組織体制の構築です。具体的には健康づくり担当者を選任して、健康経営の取り組みを進めていきます。健康づくり担当者は、企業の健康経営の施策立案を行ったり、施策の進捗管理・結果などの報告を行ったりする立場です。健康づくり担当者には、衛生管理者、産業保健師、産業医などの資格保有者が含まれていることが望ましいです。

また、健康保険組合や協会けんぽの求めに応じて、40歳以上の従業員の健診データを提供します。

6-3.制度・施策実行

3つ目のステップでは、「従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討」「健康経営の実践に向けた土台づくり」「従業員の心と身体の健康づくりに関する具体的対策」の3つを勧めます。

6-3-1.従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討

健康経営の第一歩は、自社の従業員の健康状態や課題を正確に把握することです。以下の項目を中心に、現状を分析し、必要な対策を検討しましょう。

  • 健康経営の計画:経営理念や経営方針に基づいて、健康経営の基本方針や目標を設定します。
  • 健康診断の受診勧奨:従業員の健康診断受診率100%を目指し、未受診者への声かけや受診しやすい環境づくりを行います。
  • ストレスチェック:労働安全衛生法で義務づけられている50人以上の事業場だけでなく、50人未満の事業場でも実施を検討しましょう。

ストレスチェックの詳細については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

関連記事:『【産業医監修】ストレスチェックとは?目的や実施方法・注意点を解説

6-3-2.健康経営の実践に向けた土台づくり

健康経営を効果的に実践するためには、企業全体での取り組みが不可欠です。以下のような取り組みを実施し、健康経営を推進するための土台をつくりましょう。

  • ヘルスリテラシーの向上:従業員に対して健康に関する知識を提供する教育機会を設定します。
  • ワークライフバランスの推進:長時間労働の是正など、適切な働き方実現に向けた取り組みを行います。
  • 職場の活性化:従業員同士のコミュニケ-ションを促進し、職場の雰囲気を改善します。
  • 仕事と治療の両立支援:病気や怪我の治療中の従業員が復職し、働きやすい環境を整備します。

6-3-3.従業員の心と身体の健康づくりに関する具体的対策

従業員の心身の健康を維持・増進するために、具体的な対策を実施しましょう。

以下に対策例をご紹介します。

  • 保健指導:必要な従業員に対して、保健指導や特定保健指導を行います。
  • 食生活の改善:社員食堂でのヘルシーメニュー提供や、栄養バランス情報を発信します。
  • 運動機会の増進:階段利用の奨励などの日常的な運動や、職場における全従業員対象のラジオ体操の実施などを行います。
  • 女性の健康保持・増進:婦人科がん検診の補助制度を構築したり、講師を招いて女性の健康に関するセミナーを開催したりなどを行います。
  • 長時間労働者への対応:長時間労働者への面接指導や業務の見直しを行い、過重労働を防止します。
  • メンタルヘルス対策:メンタルヘルスについての社内相談窓口の設置・周知や、不調者に対する外部EAPなどと連携したサポート体制の構築を行います。
  • 感染症予防:インフルエンザの予防接種を社内で実施したり、予防接種費用を補助したりなどの感染症対策を徹底し、職場の安全を守ります。
  • 喫煙率の低下:禁煙支援プログラムの導入や、喫煙者への啓発活動を行います。
  • 受動喫煙防止:事業場内を完全禁煙にするか、喫煙室を設置して分煙を徹底します。

メンタル不調・長時間労働の詳細については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

関連記事:

メンタルヘルス不調の症状や原因は?企業がとるべき対策を解説

長時間労働とは?法律の基準・よくある原因と対策、企業事例を解説

6-4.評価・改善

健康経営の施策を実施したら、取り組み全体の評価を行い、改善点にあわせて必要な追加施策を講じます。評価の方法としては、実施した施策の結果を確認するだけでなく、各結果を前年度分と比較分析したり、各専門家による評価を求めたりする方法があります。

評価する過程で課題が見つかったにも関わらず、とくに改善策を実施していなければ、健康経営優良法人は不認定となります。

6-5.法令順守・リスクマネジメント

最後に、定期健診やストレスチェックの実施など、法令に従ってもれなく実施できているかどうかを確認します。労働基準法および労働安全衛生法に係る違反事項がないか、適切なリスクマネジメントを行っているかなども確認します。

7.中小企業の健康経営取り組み事例

健康経営に成功している中小企業の事例を2社紹介します。

7-1.【事例1:くまもとKDSグループ】

熊本県の自動車学校「くまもとKDSグループ」は、従業員の健康を守ることを目的に健康経営に取り組みました。主な課題は高い喫煙率と不健康な食生活でした。敷地内全面禁煙や産業医など専門家からの定期的なセミナーを実施した結果、健康リテラシーが向上し、従業員の健康改善と共に入校生や入社希望者の増加も見られました。また、企業としても売上が伸びるなど、健康経営の効果を実感されています。

出典:『経営者の本気が伝わる、地方中小企業にこそ必要な「健康経営」』ACTION!健康経営

7-2.【事例2:協栄金属工業株式会社】

協栄金属工業株式会社は、経営危機を乗り越えるために健康経営を導入しました。主な課題は従業員のストレス管理と高い離職率で、具体的な対策として、ストレスチェックを活用した従業員の状態分析や産業医と連携したメンタルヘルス対策の強化、障がい者雇用の推進を実施しました。従業員を幸せにする企業経営を意識して取り組んだ結果、高ストレス者の割合が20.0%から6.2%に、離職率が28.8%から2.5%に改善し、高い効果が数値でも表れています。

出典:『地域の雇用を守る、働く心に着眼した健康経営』ACTION!健康経営

8.健康経営の推進をサポートする産業保健師・産業医とは

健康経営の推進には、専門知識を持つ産業保健師や産業医のサポートが不可欠です。産業保健師とは、従業員の健康管理や健康増進を専門とする保健師のことで、職場環境の改善や快適な職場づくりも支援する存在です。

健康経営においては、保健指導やメンタルヘルスケアなどの支援にくわえて、健康経営の企画立案にも深く関与します。とくに、課題分析や支援内容の選定、目標設定といった企画面での貢献が大きいです。

中小企業にとって、常勤の産業保健師や産業医を雇用することは難しい場合もあります。しかし、外部の産業保健サービスを活用すれば、専門的な健康管理が可能となります。専門家の力を借りて、持続的な健康経営を目指しましょう。

出典:森晃爾『健康経営の現状とその展望―産業保健スタッフはどのように関わるか―予防医学第61号<特集>健康経営と予防医学|公益財団法人 神奈川県予防医学協会

産業保健師・産業医の詳細については、こちらの記事もあわせてご参照ください。

関連記事:

産業保健師とは?役割や導入メリット・仕事内容を解説

産業医は何をする人?人事担当なら知っておきたい産業医の基礎知識

産業保健師・産業医と共に健康経営で企業の未来を築きましょう

健康経営は、企業の持続的な成長と従業員の健康を両立させるための重要な取り組みです。中小企業でもさまざまなメリットがあるため、産業保健師や産業医などの専門家の力を借り、まずは自社の状況に合わせて、できることから始めてみてはいかがでしょうか。

【この記事のまとめ】
・健康経営は、従業員の健康管理を経営的に考え、戦略的に実践する経営手法
・健康経営には生産性や企業イメージの向上、人材の確保など多くのメリットがある
・中小企業でも産業保健師や産業医の力を借りれば、健康経営に取り組むことが可能

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企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央/oneself.産業保健師一同


小橋 正樹

監修小橋 正樹

株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医

2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。


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