休職とは?人事が押さえたい休職手続きの実務と注意点
近年、メンタルヘルス不調者の増加に伴い、休職者数は増加傾向です。また、留学・自己啓発や配偶者の転勤など、働く人のニーズによって休職理由もさまざまで、企業は休職制度の整備と柔軟な対応を求められています。
この記事では、休職制度の基本知識から実務対応まで、人事担当者が押さえるべきポイントを詳しく解説します。
1 休職の定義
休職とは、「労働者について、労務に従事させることが不能又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその者に対し労働契約関係は維持しながら、労務への従事を免除又は禁止すること」を指します。
出典:『個別的労働紛争の調整事例と解説「傷病休職期間の賃金の支払い」(PDF)』厚生労働省 中央労働委員会
休職制度は法律で定められたものではなく、企業が就業規則や労働契約書などで任意に定める制度です。しかし、従業員が心身の不調や家庭の事情などで休まざるを得ない場合にも、雇用契約を維持したまま就業を免除する仕組みとして、非常に重要な役割を担っています。雇用の継続を前提に治療や問題解決に専念できることは従業員にとって大きなメリットであり、企業にとっても、有能な人材の離職防止や法的リスクの軽減につながるでしょう。
1-1 休業との違い
休業とは、従業員が労働の用意・意思があるにも関わらず、何らかの理由で労働できない・させない状態を指します。企業独自の制度である休職と異なり、法令に基づいて労働義務が免除される点が特徴です。
代表的なものに、労働基準法で定められた産前産後休業、育児・介護休業法で定められた育児休業や介護休業が挙げられます。また、天災事変等の不可抗力の休業や、経営上の都合など「使用者の責に帰すべき事由」による会社都合休業もあります。会社都合休業の場合、労働基準法では平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことが義務付けられています。
1-2 欠勤・休暇との違い
欠勤は、労働義務がある日に従業員が出勤できない状態を指し、通常は無給扱いとなります。一方で休暇は、法令に基づく年次有給休暇や、企業が独自に定めた特別休暇など、従業員が権利として取得できる休みであり、賃金が支払われるケースが多いです。
欠勤や休暇が一時的な不就労であるのに対し、休職はより長期的で、計画的に対応するための仕組みといえるでしょう。なお、就業規則によっては、休職を発令する条件として「●日以上の連続欠勤があった場合」と定めていることもあります。
2 休職の目的の種類
休職は大きく分けて、「私傷病休職」と、それ以外の理由による休職に分類されます。私傷病休職は最も一般的なケースであり、多くの企業で制度化されています。それ以外の休職には、留学や配偶者の転勤、介護などの自己都合によるものや、懲戒処分としての休職も含まれます。ここでは、それぞれの休職の目的や背景について詳しく見ていきましょう。
2-1 私傷病休職
私傷病休職は、業務外の病気やけがによる休職を指します。なかでも近年増えているのが、うつ病・適応障害(適応反応症)などのメンタルヘルス不調による休職です。厚生労働省が実施した『令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」結果の概要』によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.2%でした。当該年度を含む直近3年間は約10%にとどまっているものの、平成30年の6.7%と比較すると増加傾向にあります。
私傷病休職では、医師の診断書の提出を必須としている企業が一般的で、復職に際しては主治医の意見書にくわえ、産業医による復職可否の判断が重要な役割を果たします。
2-2 留学・自己啓発の休職
語学留学や資格取得、長期研修など、自己成長・能力開発を目的とした自主的な休職制度を設ける企業もあります。近年では人材育成の観点からこうした制度を積極的に導入する企業が増加しており、リスキリングの重要性が高まる中でさらに注目されています。
期間は数ヶ月から数年と幅広く、休職中の処遇も企業によって大きく異なります。制度を設ける場合は、対象者の選定基準や費用負担、復職後の処遇や約束など、詳細なルールを定めておくと、申出時の判断がしやすくなるでしょう。
2-3 配偶者の転勤に伴う休職
結婚や配偶者の転勤によって従業員が勤務地を離れる必要がある場合、離職を避けるための休職制度です。働き方の多様化や共働き世帯の増加に伴い、導入する企業が増えています。
単身赴任を回避し家族と過ごす時間を確保しながら、将来的な復職の道を残せる点は、従業員の継続就業支援に有効です。企業にとっても、優秀な人材の流出を防ぐメリットがあるでしょう。
2-4 介護による休職
法定の介護休業制度(通算93日)でカバーできない長期の介護事情がある場合に備えて、独自の介護休職制度を設ける企業もあります。少子高齢化が進む日本では、親の介護と仕事の両立が大きな社会課題となっており、介護休職制度のニーズは今後さらに高まることが予想されます。
休職期間は企業によって異なりますが、介護の状況は流動的で従業員の心身の負担も大きいため、柔軟な対応が求められるでしょう。
2-5 自己都合による休職
企業によっては、従業員のリフレッシュやキャリア見直しのためのサバティカル休暇制度を設けている場合があります。一定期間の勤続などを条件に、数ヶ月〜1年程度の休職を認めるケースが多く、留学やリスキリング以外の理由でも取得可能な柔軟な休職制度です。
長期勤続者のモチベーション維持やメンタルケアにつながるメリットがありますが、業務への影響や他の従業員との公平性の観点から、慎重な制度設計が求められます。対象者の限定や期間の制限、復職後の処遇など、明確な基準を設けることが重要です。また、制度を悪用した事実上の転職活動を防ぐため、復職後の勤務期間の約束や早期退職時の処遇についても定めておく必要があるでしょう。
2-6 懲戒休職
就業規則に定める重大な懲戒事由に該当した従業員に対し、懲戒処分として休職を命じるのが懲戒休職です。企業によっては、短期間の「出勤停止」処分と区別して、2~3ヶ月程度の長期間の就労を禁止する措置として、別途規定することがあります。そのため、懲戒の種類としては、出勤停止よりも重く、諭旨解雇や懲戒解雇よりは軽い処分として位置づけられることが一般的です。
ただし、懲戒処分を科すには、労働契約法に基づく厳格な要件を満たす必要があり、処分の妥当性については十分な検討が必要です。処分が過重とならないよう配慮し、法的リスクを踏まえた対応が不可欠です。
3.人事がおさえるべき休職対応の実務
休職制度は法的に義務付けられているものではありませんが、従業員の雇用安定や企業における人材確保の観点から、整備が強く推奨されます。制度を策定し、就業規則に明記しておくことで、対応の基準が明確になり、トラブルの防止にもつながるでしょう。
ここでは、主に私傷病休職に対する人事担当者の実務について解説します。
3-1 従業員からの休職申出
休職とは、原則として企業の命令によって従業員の就労を禁止するものであり、従業員が申し出れば自動的に休職できる制度ではありません。ただし、私傷病休職の場合は、従業員から体調不良の相談が寄せられることを契機として、休職手続きに進むケースが多いです。
従業員から体調不良による休職の申出があった場合、あるいは心身の不調が見られ休職させることが望ましいと企業が判断した場合には、まず医師の診断書の提出を求めたうえで、従業員への聞き取りを行いましょう。現在の体調や不調の背景、休職の見込み期間、休職中の連絡先などを確認します。
提出された診断書については、直近の勤怠状況と合わせて内容の妥当性を産業医等の専門家と共有し、必要に応じて産業医による主治医への照会や産業医面談を実施することが望ましい対応です。また、申請から休職開始までの間も、従業員の状態に変化がないか注意を払い、必要な配慮を行うことが大切です。
3-2 休職命令の発令
従業員への聞き取りを終えたら、診断書や勤怠記録、産業医等の専門家の見解を踏まえて、休職命令を発令するかどうかを判断します。その際、就業規則に定められた休職期間を満了しても復職できない場合に備え、今後の対応方針(休職延長・退職勧奨・自然退職の扱いなど)についても、あらかじめ検討しておくことが推奨されます。
休職命令の発令が決まったら、従業員本人へ正式に通知を行います。口頭での通知も可能ですが、休職開始日や予定期間、休職中の待遇(給与の有無、社会保険の取り扱いなど)を明記した「休職命令通知書」を書面で交付するのが望ましいでしょう。あわせて、休職期間中の報告義務、復職手続きの流れなどについても丁寧に説明します。
3-3 給与・社会保険などの手続き
休職中の給与支払いは、就業規則の定めに従います。ノーワーク・ノーペイの原則に基づき無給とすることが一般的ですが、福利厚生の一環として一部支給を行う企業もあります。
社会保険については、休職中も被保険者資格が継続するため、たとえ無給であっても保険料の納付義務は発生します。従業員負担分については、本人から都度振込で徴収するか、復職後の給与から控除するかなど、あらかじめ対応方法を決めておくことが重要です。
また、無給の休職となる場合には、健康保険から傷病手当金を受給できる可能性があります。休職中の従業員の大事な生活保障となるため、申請方法や必要書類を丁寧に案内し、手続きの支援を行いましょう。あわせて、長期休職が見込まれる場合は、住民税の普通徴収への切り替え手続きが必要になることもあるため、こちらも確認が必要です。
3-4 休職期間のモニタリング
休職中の対応は企業で自由に決められますが、制度設計にあたっては、従業員が孤立感を抱かないよう、定期的な報告や面談の機会を設けることが望まれます。ただし、過度な連絡は療養の妨げにもなり得るため、月1回程度の定期連絡が適切とされています。連絡方法は本人の希望に配慮し、メールや電話、面談など最適な手段を選びましょう。
また、保健師や産業医などの産業保健スタッフとの連携も大切です。休職者の状況を共有し、復職に向けた支援体制を整えることで、スムーズな職場復帰につながります。とくにメンタルヘルス不調による休職の場合は、主治医との連携が重要になりますが、プライバシーに配慮し、本人の同意を得たうえで情報共有を行うようにしましょう。
4.休職対応におけるポイント
休職対応は、単に制度を運用するだけでなく、法的リスクや従業員のケア、職場環境の整備など、多角的な視点が求められます。ここでは、人事担当者が押さえておくべきポイントについて解説します。
4-1 休職中も解雇権濫用法理を考慮
私傷病休職は、業務外の傷病による欠勤に基づく休職であるため、労働基準法第19条の解雇制限(「業務上の負傷・疾病により療養のため休業している期間とその後30日間」の解雇禁止)の対象となりません。
しかし、労働契約法第16条に定められている解雇権濫用法理により、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効」とされます。休職が解雇を回避するための制度であることも踏まえると、休職期間中の安易な解雇は避けるべきです。
休職期間満了の少なくとも1ヶ月前には本人に書面で通知し、復職できない場合には、就業規則の定めに基づき労働契約を終了する旨を正式に伝えなければなりません。
4-2 安易な休職命令・復職拒否のリスク
休職制度とは、企業の命令によって従業員の就労を禁止する制度ですが、あまりに一方的な休職命令や復職拒否を行なうと、法的トラブルに発展するリスクがあります。
休職の判断は医学的な視点が必要であり、産業医や主治医の意見を無視して企業が独断で判断することは避けるべきでしょう。とくにメンタルヘルスに関する事案では、見た目や印象だけで状態を評価するのは困難で、専門医の診断や助言に基づいた対応が不可欠です。
復職の可否は、産業医の意見を踏まえた客観的な基準に基づき、職務遂行能力や必要な配慮を考慮して判断しましょう。
4-3 労災認定やハラスメントの対応
従業員の休職理由が、ハラスメントや過重労働など職場環境に起因するメンタルヘルス不調である場合、労災として認定される可能性があります。万が一、労働災害と認定された場合には、企業が安全配慮義務違反や使用者責任を問われ、損害賠償請求に発展するリスクも否定できません。
ハラスメントが原因となっている場合は、原因の究明と再発防止策を講じることが重要です。事実関係の正確な把握や加害者への適切な処分、被害を受けた従業員のケアなど、組織としての誠実な対応が求められます。
また、過重労働が背景にある場合には、労働時間の適正管理や業務量の見直しなど、根本的な職場改善を行います。対応にあたっては、弁護士や社会保険労務士など、外部の専門家と連携することも有効な手段となるでしょう。
5.復職支援・職場復帰の実務
職場復帰の基本的なフローは次のとおりです。第1ステップの「病気休業開始及び休業中のケア」から第5ステップの「職場復帰後のフォローアップ」まで、一連の流れに沿った支援を計画的に実施することが大切です。
出典:『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(PDF)』厚生労働省 中央労働災害防止協会
とくに、主治医や産業医の意見を踏まえた職場復帰の可否判断と、個々の従業員に合わせた「職場復帰支援プラン」の作成が重要です。復職後も定期的な面談や業務状況の確認を行い、必要に応じて配慮内容を調整していきましょう。
また、「リワーク」と呼ばれる復職準備プログラムや「試し出勤制度」の活用も効果的です。正式な復職前に段階的な復職のステップを踏むことで、本人の不安軽減と職場環境への順応を図り、より円滑な復職が期待できるでしょう。
6 産業医から休職対応に関するアドバイス
最後に、株式会社oneself. 代表取締役であり統括産業医を務める小橋正樹より、数多くの休職対応に関わってきた経験から、人事担当者の皆さまへ2つのアドバイスをお伝えします。
6-1 ①休職制度を整備し、適切に運用する
休職制度が整っていると、従業員は安心して働き続けられ、万一の際にも療養に専念できます。制度の整備は従業員の安心感を高め、職場復帰の円滑化にもつながるでしょう。企業にとっても、制度を適切に運用することは、離職率の低下や法令遵守、ひいては長期的な人材の定着に寄与します。
6-2 ②「見る・聴く・つなぐ」のステップを意識する
従業員と日頃から関わり(見る)、丁寧にコミュニケーションを取る(聴く)ことで、小さな変化にもいち早く気づけます。勤怠の乱れやパフォーマンスの低下が1〜2週間続く場合はとくに注意が必要です。そうした兆候に気づいたら、人事部門だけで抱え込まず、保健師や産業医などの専門職に相談する(つなぐ)ことが大切です。
詳しくはPodcastでも解説しています。ぜひお聴きください。
7.休職対応を整え、安心できる職場づくりへ
休職は、従業員の雇用や健康を守るための重要な制度です。休職制度を整備し、対応を明確にしておくことで、トラブルを未然に防ぎ、安心して働ける職場づくりにつながります。この記事で紹介した実務ポイントを参考に、自社の対応状況を今一度見直してみてはいかがでしょうか。
【この記事のまとめ】
・休職とは、企業が従業員との雇用関係を維持しながら就労を免除・禁止する制度
・休職制度の策定は法的義務ではないが、整備し就業規則に明記することが望ましい
・特に私傷病休職の対応では「見る・聴く・つなぐ」のステップによる産業保健スタッフとの連携が重要
株式会社oneself.では、保健師・産業医の専門チームが企業の健康管理を伴走支援する「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供しています。チャットでいつでも産業保健のプロに相談し放題。休職者対応はもちろん、従業員の健康管理に関するさまざまな対応に、ぜひご活用ください。
企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央 /oneself.産業保健師一同
監修小橋 正樹
株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医
2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。