【産業医監修】メンタルヘルス不調の症状や原因は?企業がとるべき対策を解説
メンタルヘルス不調は、日々の生活や職場でのストレスなどが原因で、誰にでも起こり得るものです。とくに職場では、従業員がメンタルヘルス不調に陥ると、本人の健康はもちろん、業務の効率や職場の雰囲気にも大きな影響を及ぼします。
健康経営の観点からも、企業が従業員のメンタルヘルスケアに積極的に取り組むことは非常に重要です。この記事では、メンタルヘルス不調の症状や原因、企業がとるべき対策について詳しく解説します。
1.メンタルヘルス不調(メンタル不調)とは
メンタルヘルス不調(メンタル不調)とは、強いストレスや悩み、不安が原因で、こころの健康が崩れている状態を指します。
厚生労働省の指針によると、メンタルヘルス不調は「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」と定義されています。
従業員のメンタルヘルス不調は、仕事に対する意欲や生産性の低下、対人関係の悪化を招き、個人だけでなく組織全体に悪影響を及ぼします。うつ病や適応障害の原因となることもあるため、早期の対応と適切なケアが重要です。
また、企業が従業員のメンタルヘルスケアに積極的に取り組むことは、個々の健康を守るだけでなく、職場全体の健全な環境づくりにもつながります。
出典:『職場における心の健康づくり(PDF)』厚生労働省 P.26
2.メンタルヘルス不調の原因
メンタルヘルス不調の原因は、大きく環境要因と個人要因の2つに分けられます。ここでは、それぞれの要因の具体例を解説します。
2-1.環境要因
メンタルヘルス不調の原因には、生活環境や社会的な要因などの外部環境が影響して引き起こされるものがあります。職場における環境要因には以下のようなものがあります。
- 上司や同僚など職場の人間関係、ハラスメント
- 長時間労働や過重な業務負荷
- 異動・昇進による責任の重圧
- 組織再編やリストラなどの企業の変化
- 騒音や温度などの物理的環境の問題
環境要因は個人が直接コントロールできないもののため、企業への対応や環境改善が求められます。
2-2.個人要因
個人の性格や心理的特性、過去の経験、健康状態など個人の要因でメンタルヘルス不調が引き起こされる場合もあります。個人要因の例は以下のとおりです。
- 遺伝や脳の機能、構造
- ホルモンバランスの乱れ
- 性格(完璧主義、自尊心の低さなど)
- ストレス対処能力の不足
- 過去のトラウマや幼少期の家庭環境
心理的要因に関連する個人要因のメンタルヘルス不調には、医師や公認心理師といった専門家への相談が望ましいです。なお、遺伝や脳の働き方(素因)における脆弱性を病因とする精神障害を内因性精神障害と呼びます。
3.職場におけるメンタルヘルス不調者と企業の現状
ここでは、令和5年労働安全衛生調査(実態調査)をもとに、職場におけるメンタルヘルス不調者の現状を解説します。
出典:『令和5年労働安全衛生調査(実態調査)の概況(PDF)』厚生労働省
3-1.仕事や職業生活に強いストレスがある従業員の割合
令和5年度の労働安全衛生調査によると、82.7%の従業員が職場で強いストレスを感じており、前回の82.2%からさらに増加しています。
ストレス要因としては、「仕事の失敗、責任の発生等」が39.7%と最も多く、次いで「仕事の量」が39.4%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が29.6%、「仕事の質」が27.3%と続き、従業員が職場で直面するプレッシャーが多岐にわたることが示されています。
3-2.仕事や職業生活の相談相手の有無
令和5年度の労働安全衛生調査では、自分の仕事や職業生活でストレスを感じた際に、相談相手がいると答えた従業員の割合は94.9%で、前回の91.9%を上回りました。また、その中で実際に相談したことがある従業員の割合は73.0%で、こちらも前回の69.4%より増加しています。
相談相手としては、家族や友人、同僚、上司がいずれも60%を超えています。産業保健スタッフへの相談も有効ですが、産業医や保健師への相談は10%未満と依然として少ないのが現状です。産業保健スタッフへの相談体制の確立や周知など、改善が求められます。
3-3.1ヶ月以上休業・退職した従業員がいる企業割合
令和5年度の労働安全衛生調査によれば、メンタルヘルス不調によって1ヶ月以上休業または退職した従業員がいる事業所の割合は13.5%で、前回の13.3%から微増しています。
内訳としては、1ヶ月以上休業した従業員がいる事業所は10.4%で、退職した従業員がいる事業所は6.4%となっています。この結果は、職場でのメンタルヘルス不調が依然として深刻な問題であることを示しており、企業における早期対応の重要性を示しています。
3-4.メンタルヘルス対策を実施した企業割合
メンタルヘルス対策を実施している企業の割合は63.8%で、令和4年度の63.4%、令和3年度の59.2%から年々増加傾向にあります。
具体的な取組として、「ストレスチェックの実施」が65.0%、「メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮」が49.6%、「職場環境等の評価および改善」が48.7%などが挙げられます。企業は従業員のメンタルヘルスを維持するため、さまざまな手法を導入しています。
3-5.産業保健の取組を行った企業割合
令和5年度の労働安全衛生調査によると、産業保健の取組を行っている企業の割合は87.1%に上ります。取組内容としては、「健康診断結果に基づく保健指導」が74.7%と最も多く、次いで「メンタルヘルス対策(相談体制の整備、ストレスチェック結果を踏まえた職場環境改善等)」が74.2%と続いています。
この結果から、企業としても産業保健の取組の重要性を強く認識しており、メンタルヘルス対策にも積極的に取り組んでいることが分かります。
4.メンタルヘルス不調者が多い職場の特徴
メンタルヘルス不調者が多い職場の特徴には、まず長時間労働が挙げられます。労働者災害補償保険法の精神障害の認定基準でも、月80時間を超える残業が続くと、心理的負荷が強いと判断されることが多いです。
また、仕事の質や失敗、責任の重さ、業務負荷に対する裁量権の欠如といったストレス要因が大きい場合、メンタルヘルス不調のリスクが高まります。さらに、上司や同僚からのサポート不足やハラスメントといった対人関係のトラブルもストレスを増幅させやすいです。このような課題を抱える企業は、職場環境の改善と支援体制の整備が急務です。
長時間労働の重要性や基準、取り組みのポイントについては、こちらの記事もあわせて参考にしてください。
関連記事:『長時間労働とは?法律の基準・よくある原因と対策、企業事例を解説』
出典:
*1『精神障害の労災認定(PDF)』厚生労働省 P.4
*2『令和5年労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要【個人調査】(PDF)』厚生労働省 P.1
*3『職場におけるメンタルヘルス対策の現状等(PDF)』厚生労働省 P.12
5.【ケーススタディ】メンタルヘルス不調者への対応方法
職場でメンタルヘルス不調者が発生した場合、企業はどのように対処すべきでしょうか。ここでは、産業医のアドバイスに基づいた適切な対応方法を紹介します。ただし、紹介する方法は一般的なものであり、実際の対応は企業と従業員の状況に応じて異なることに注意が必要です。
5-1.ストレスチェックで高ストレス判定が出た場合
ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員には、医師による面接指導を行います。高ストレス者とは、ストレスチェックのスコアが一定基準を超えていると総合的に判断された者を指しますが、必ずしもメンタルヘルス不調者とは言い切れません。面接指導は本人の申出に基づいて実施されますが、高ストレス状態が続くとメンタルヘルス不調につながる可能性が高いため、面接指導を強く勧めることが望ましいでしょう。
なお、ストレスチェックの実施者と実施事務従事者でない限りストレスチェックの結果は確認できませんが、人事担当者は勤怠やパフォーマンスに変化がないかを注視し、異変が見られた場合には迅速に産業保健スタッフに連携することが重要です。
5-2.従業員の休職を検討する場合
従業員のメンタルヘルス不調が深刻な場合は、休職を検討します。休職は法律に基づく制度ではないため、各企業の就業規則に従って進められます。まずは、就業規則を確認し、休職の条件を把握しましょう。
次に、必要に応じて従業員に保健師や産業医の面談を受けてもらい、医療機関で診断書を取得してもらいます。休職の判断は、診断書による主治医の意見、産業医の就業に関する見解、本人の意向を踏まえて決定することが望ましいです。
従業員が安心して療養に専念できるよう、社内でサポート体制を整えることが重要です。休職中は、必要に応じて定期的に保健師面談や産業医面談を実施して健康状態を継続的に把握します。また、就業規則に休職中の従業員の義務を明記しておくと、企業との連絡を維持しやすくなり、復職準備もスムーズに進められます。
5-3.従業員の復職を検討する場合
従業員を復職させる場合には、以下のステップを踏むことが一般的です。
出典:『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(PDF)』厚生労働省 P.1
まず、主治医から復職可能であるという診断書を取得します。次に、主治医の意見を参考に、従業員本人、産業医(産業保健スタッフ)、人事担当者、上司などの関係者間で協議し、復職プランを策定します。業務内容の調整やサポート体制の整備を行い、従業員が無理なく職場に戻れるよう配慮することが重要です。就業規則に基づいて復職手続きを進め、復職後も保健師・産業医との定期的なフォローアップを行い、再発防止に努めます。
5-4.従業員の解雇を検討する場合
メンタルヘルス不調を理由に解雇を考える際は、慎重な対応が必要です。就業規則の解雇事由に該当する場合でも、解雇はトラブルに発展する可能性が高く、企業にとって大きなリスクを伴います。解雇を回避できる選択肢がある場合は、可能な限りそれを活用することが望ましいでしょう。
休職制度がある企業では、まずは休職制度の利用をおすすめします。就業規則に明確な定めがある場合、休職期間が満了しても復職の見込みがなければ自然退職となることが一般的です。ただし、退職は従業員にとっても大きな不安を伴うため、休職に入る前に本人にしっかりと説明し、理解を得たうえで実施することが重要です。
6.【セルフチェック】メンタルヘルス不調のサインと初期症状
メンタルヘルス不調は、企業が対策を講じるだけでなく、従業員本人が自分のストレスや初期症状に気付くことも大切です。本章では、メンタル不調の初期症状をフィジカル・メンタル・パフォーマンスに分けてまとめたので、従業員向けのセルフチェック表としてご活用ください。
【フィジカル(身体面)】 | 【メンタル(精神面)】 | 【パフォーマンス(行動面)】 |
不眠・過眠 | 不安 | 遅刻・欠勤・早退 |
食欲不振 | 怒り | ミスの増加 |
疲労・倦怠感 | イライラ | 身だしなみの乱れ |
頭痛 | 悲しみ | 過度の飲酒・喫煙 |
吐き気・嘔吐、腹痛 | 落ち込み | ギャンブル |
肩こり | 集中力低下 | 暴言・暴力 |
血圧上昇 | 意欲低下 | 散財 |
動悸 | 訳もなく涙が出る | 対人トラブル |
下痢・便秘 | 自己否定 | 孤立 |
気になる症状がみられる従業員がいた場合は、早めに産業保健スタッフにつなぐようにしましょう。
7.メンタルヘルス不調について理解し、適切な対策を講じましょう
メンタルヘルス不調の原因や症状を知り、効果的な対策について理解を深めることは、健康的な職場づくりに不可欠です。この記事で紹介したケーススタディを参考に、積極的に対策を講じましょう。
こちらの記事ではメンタルヘルス対策の詳細を解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:『メンタルヘルスとは?職場でできる支援方法や企業事例を紹介』
【この記事のまとめ】
・メンタルヘルス不調(メンタル不調)とは、強いストレスや悩みでこころの健康が崩れている状態
・メンタルヘルス不調の原因は、長時間労働・責任の重さ・ハラスメントなど多岐にわたる
・メンタルヘルス不調者への対応は、休職・復職など個々の事情に応じて適切に対応することが重要
株式会社oneself.では、保健師・産業医の専門チームが企業の健康管理を伴走支援する「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供しています。チャットでいつでも相談し放題、産業保健のプロが従業員のメンタルヘルス不調をサポートします。従業員のメンタルヘルスを守るために、ぜひご活用ください。
企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央/oneself.産業保健師一同
監修小橋 正樹
株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医
2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。