【産業医監修】雇入れ時健康診断とは?受診時期や費用負担・実施の流れを解説

新たに従業員を雇うとき、企業には「雇入れ時健康診断」の実施が義務づけられています。雇入れ時健康診断は、入社する従業員の健康状態を確認し、適切な配置や管理を行うために欠かせません。

この記事では、雇入れ時健康診断の基本事項と実施の流れについて解説します。実施時期や費用負担、具体的な検査項目について詳しく理解して、スムーズな対応を行いましょう。

1.【企業の義務】健康診断の種類

企業には、一般健康診断の実施が法令で義務づけられています。雇入れ時健康診断は、一般健康診断の一部として位置づけられているものです。他にも、有害業務に従事する従業員に対する特殊健康診断、じん肺健診や、歯科医師による健診が必要となる場合もあります。

一覧表で一般健康診断の主な種類についてまとめました。

健康診断の種類対象者実施時期



一般健康診断
雇入れ時健康診断(労働安全衛生規則第43条)常時使用する従業員・雇入れ(入社)の際
定期健康診断
(労働安全衛生規則第44条)
常時使用する従業員・1年以内ごとに1回(定期実施)
特定業務従事者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条)
労働安全衛生規則第13条第1項第3号に掲げる業務に常時従事する従業員・当該業務へ配置替えの際
・6ヶ月以内ごとに1回(定期実施)
海外派遣労働者の健康診断
(労働安全衛生規則第45条の2)
海外に6ヶ月以上派遣する従業員・海外に6ヶ月以上派遣する際
・帰国後国内業務に就かせる際
給食従業員の検便
(労働安全衛生規則第47条)
事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する従業員・雇入れ(入社)の際
・当該業務へ配置替えの際

2.雇入れ時健康診断(入社前健康診断)とは

雇入れ時健康診断とは、新たに採用した従業員の健康状態を確認するために実施する健康診断です。入社前健康診断と雇入れ時健康診断は同じ意味となります。対象者や検査項目、受診時期・期限、費用負担など、雇入れ時健康診断の具体的な内容について見ていきましょう。

2-1.対象者

雇入れ時健康診断の対象者は、労働安全衛生規則第43条より、常時使用するすべての労働者と定められています。正社員だけでなく、以下の①②の条件をいずれも満たす場合は、アルバイトやパートタイマーも対象となります。

①労働契約の期間が以下のいずれかにあてはまること

  • 無期契約(期間の定めのない労働契約)である
  • 有期契約で、1年以上(特定業務従事者は6ヶ月以上)雇用が予定されている
  • 有期契約で、更新により既に1年以上(特定業務従事者は6ヶ月以上)雇用されている

②1週間の所定労働時間が同じ業務に従事する労働者の4分の3以上であること

なお、②に該当しない場合でも、①に該当し、1週間の労働時間が同じ業務に従事する労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者に対しても、一般健康診断を実施するのが望ましいとされています。

出典:『Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?』厚生労働省 東京労働局

2-2.健診項目

雇入れ時健康診断では、法令で定められた健診項目を実施します。具体的には、以下の11項目です。

1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3.身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4.胸部エックス線検査
5.血圧の測定
6.貧血検査(赤血球数、血色素量)
7.肝機能検査[GOT (AST)、GPT(ALT)、γ-GTP]
8.血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9.血糖検査
10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11.心電図検査(安静時心電図検査)

出典:『定期健康診断等について(PDF)』厚生労働省 栃木労働局

2-3.受診時期・期限

雇入れ時健康診断は、雇入れの直前または直後の適切な時期に行います。具体的には、入社前後3ヶ月以内が受診時期として推奨されています。なお、入社前の期限に関しては、入社前3ヶ月以内に実施された健康診断の結果を雇入れ時健康診断として代用できるという労働安全衛生規則第43条の条文が根拠規定となります。

入社後の受診期限については法令で明確な規定はありません。ただし、雇入れ時健康診断を実施する目的は、適正な業務配置を行うために従業員の健康状態を把握することです。そのため、遅くとも配属部署に配置する前(入社後3ヶ月以内を目安)に実施すべきだろうという捉え方が一般的でしょう。

出典:『健康診断実施機関セミナー (一般健康診断について)』厚生労働省 大阪労働局 P.8

2-4.費用負担

雇入れ時健康診断の費用は、健康診断の実施が企業の義務である以上、原則としては企業が負担すべきものであると通達に記載されています。新卒採用・中途採用、アルバイトなど、すべての従業員に対して同様の扱いが求められます。

費用は保険適用外のため、やや高額になり、一般的には10,000円前後が目安です。企業が指定する健診機関で受診する場合は企業が費用を直接支払いますが、従業員が希望する健診機関で受診する際は一旦自己負担してもらい、領収書の提出をもって精算します。

3.雇入れ時健康診断を省略できるケース

雇入れ時健康診断は、入社前3ヶ月以内に実施された健康診断の結果を企業に提出すれば、省略が可能です。労働安全衛生規則の条文には、「医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。」と記載があります。

出典:『労働安全衛生規則第43条(雇入時の健康診断)

例えば、4月1日に入社する場合、1月1日以降に受診した健康診断の結果が有効です。ただし、健診結果書類を受け取った日ではなく、実際に健康診断を受けた受診日を基準とする点に注意が必要です。

入社予定者に健康診断結果の有効期限を伝える際は、健診受診日から3ヶ月以内の結果を提出するように伝えましょう。

3-1.健診項目の省略は不可

雇入れ時健康診断では、法令で定められた11項目すべての健診項目を実施する必要があります。定期健康診断では、年齢や健康状態に応じて一部の健診項目の省略が認められていますが、雇入れ時健康診断では認められません。

これは、雇用開始から数ヶ月で病気が発生した際、その病気が入社前から所見があったのか、入社後に悪化したのかが争点の1つとなるため、企業を守るためにも重要です。

4.雇入れ時健康診断の実施の流れ

実際に雇入れ時健康診断を実施する際の流れについて確認していきましょう。ここでは、新卒採用と中途採用のそれぞれにおいて、以下のケースを想定して解説します。

  • 大学4年生の夏ごろに内定を受け、翌年4月に入社するスケジュール
  • 中途採用で入社月の1~2か月前に内定を受けるスケジュール

4-1.健康診断の概要・日時を伝える

入社が確定したら、雇入れ時健康診断の概要を伝えます。新卒社員には内定時に、中途社員には入社日決定時にお知らせを行います。具体的な通知文の例は以下の通りです。

この度は弊社への内定おめでとうございます。
入社手続きの一環として、雇入れ時健康診断の受診が必要です。
以下の期間に受診をお願いいたします。

受診期間:〇月〇日~〇月〇日(入社日3ヶ月前後の日付を記載)
健診機関:〇〇クリニック
住所:〇〇市〇〇町〇丁目〇番地

他の健診機関で受診することも可能ですが、法定の11項目全てを含む健康診断を受けてください。
指定健診機関以外で受診した方は、領収書を提出していただければ後日費用を精算いたします。
詳細は添付資料をご確認ください。

健康診断の準備や当日の注意点についても、添付資料で説明しましょう。従業員が安心して健康診断を受けられるよう、丁寧な説明を心掛けることが大切です。

4-2.健康診断を申し込む

雇入れ時健康診断の申し込みは、従業員が健診機関に直接予約する方法と、企業がまとめて予約する方法があります。従業員が直接申し込む場合、自身の都合に合わせた日時で受診ができ、電話やWebサイト予約など、本人が予約しやすい健診機関を選択できます。

企業がまとめて予約を行う方法は、新卒など大勢の従業員が入社する場合や、一斉に健康診断を実施する必要がある場合に有効です。企業の人事部が指定する健診機関に連絡し、必要な人数分の予約を確保します。

どちらの方法を選ぶかは、企業の規模や新入社員の数によって異なります。従業員には、予約方法を具体的に案内し、手続きがスムーズに進むようサポートすることが重要です。

4-3.健康診断の流れを伝える

雇入れ時健康診断を円滑に行うために、事前に従業員に必要な情報を伝えましょう。健康診断の前日に避けるべき食事や当日の受付方法、問診票の記入方法などをまとめて説明しておくと、従業員が安心して当日を迎えられるでしょう。

例えば、「健康診断の前日はアルコールと脂っこい食べ物は控え、21時までに夕食を済ませてください。当日は朝食を抜いてください。〇〇クリニックに到着したら、受付でお名前と会社名をお伝えください。問診票は事前に記載して持参するとスムーズです。」といった具体的な案内が有効です。

4-4.診断結果を受け取る

雇入れ時健康診断の結果の受け取り方法は、企業や利用する健診機関によって異なります。企業が指定する健診機関で受診する際は、健診結果が健診機関から直接企業に送られることが多いですが、従業員の自宅に送付されるケースもあります。

企業に結果が届く場合、企業は従業員に本人用の結果票を渡す必要があります。一方、従業員に結果が届く場合は、従業員から企業に診断結果のコピーを提出してもらいます。診断結果の通知には通常1~2週間程度かかりますが、健診機関によっては即日や翌日に結果を発行することも可能です。

4-5.健康診断個人票を作成・保存する

健康診断個人票とは、企業が従業員に健康診断を受けさせた際に作成が必要となる法的な書類です。企業が従業員の健康状態を把握し、適切な健康管理を行うために重要な役割を果たしています。労働安全衛生規則第51条に基づき、企業は健康診断の結果から必要項目を記載し、保管しなければなりません。

なお、健康診断個人票を健診機関に作成してもらうためには、契約時に依頼する必要があります。

フォーマットとしては、厚生労働省から示されている様式第5号がありますが、すべての項目が記載されていれば形式は問われません。また、作成した健康診断個人票は、同法に基づき、最低5年間保存することが義務づけられています。

4-6.医師等からの意見聴取を行う

雇入れ時健康診断の結果、要医療や要再検査、精密検査などの異常が見つかった場合には、医師等から就業上の措置について意見聴取を行う必要があります。

具体的には、以下の就業上の措置が必要かどうか、医師等からの意見を聴取します。

【1】就業制限
勤務による負荷を軽滅するため、以下のような措置を講じる。

  • 労働時間の短縮
  • 出張の制限
  • 時間外労働の制限
  • 労働負荷の制限
  • 作業の転換
  • 就業場所の変更
  • 深夜業の回数の減少
  • 昼間勤務への転換

【2】要休業
療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。

なお、意見聴取を行う医師は、産業医が望ましいとされています。産業医がいない場合は、健康診断を実施した医師や他の専門医から意見を聴取することも可能です。

出典:『労働安全衛生法の定める健康診断事後措置等のあらまし(PDF)』厚生労働省 愛知労働局

4-7.健康診断実施後の措置や保健指導を行う

雇入れ時健康診断の実施後は、結果に基づいて必要な措置や保健指導を行うことが重要です。異常の所見があると診断された従業員の健康を維持し、業務に適した環境を従業員に提供するために、企業は就業上の措置を講じなければなりません。

具体的には、医師等からの意見を踏まえて、前述した就業制限や休業などの措置を取る必要があります。

また、健康診断の結果、特に必要な従業員には医師や保健師による保健指導を行います。具体的には、日常生活の改善指導や健康管理に関する情報提供、再検査・精密検査の受診勧奨、健診機関での治療を促す指導などが挙げられます。

出典:『労働安全衛生法の定める健康診断事後措置等のあらまし(PDF)』厚生労働省 愛知労働局

5.雇入れ時健康診断に関するQ&A

雇入れ時健康診断に関する疑問や不安を解消するためのQ&Aをまとめました。受診が間に合わない場合やアルバイト・派遣社員の対応、診断結果の活用方法など、よくある質問にお答えします。

Q1.健康診断が間に合わない場合どうすればいいですか?

内定後から入社日までの期間が短く、従業員のスケジュールが合わずに雇入れ時健康診断を受診できない場合は、入社後に受診すれば問題ありません。

法令では具体的な受診期限は明示されていませんが、適正な業務配置を行うために、入社後3ヶ月以内に受診するのが良いでしょう。

なお、雇入れ時健康診断については、受診日に関わらず行政報告の義務はありません。労働安全衛生規則第52条では、50人以上の企業で定期的に実施する健康診断の結果のみ、労働基準監督署への報告が義務づけられています。

Q2.アルバイトや派遣社員も雇入れ時健康診断を行いますか?

一定の条件を満たすアルバイトや派遣社員にも、雇入れ時健康診断を実施する必要があります。

具体的には、1年以上(特定業務従事者は6ヶ月以上)雇用されている、もしくは雇用される予定がある場合で、かつ、1週間の所定労働時間が通常労働者の4分の3以上である場合、健康診断の対象となります。

また、派遣社員については、雇入れ時健康診断を含む一般健康診断では、実施義務があるのは派遣元の企業です。一方、特殊健康診断は、派遣先の企業に実施義務があります。

Q3.健康診断結果を採用可否の参考にしていいですか?

雇入れ時健康診断の結果より、健康上の理由で不利益取り扱いを行うことは禁止されています。雇入れ時健康診断は採用決定後に実施するものであり、雇入れ時健康診断で問題があるからといって、内定取り消しや待遇の変更を行うことは違法です。

「「雇入時の健康診断」は、常時使用する労働者を雇い入れた際における適正配置、入職後の健康管理に役立てるために実施するものであって、採用選考時に実施することを義務づけたものではなく、また、応募者の採否を決定するものではありません。」

出典:『公正な採用選考をめざして(PDF)』厚生労働省 P.10

ただし、重大な健康上の問題があり、業務遂行が困難な場合には、医師の意見を基に適切な対応を検討することが必要です。

Q4.雇入れ時健康診断を受けた後、定期健康診断は省略できますか?

はい、定期健康診断は、労働安全衛生規則第44条第3項により、一定の基準を満たす場合は省略することが可能となっています。

具体的には、雇入れ時の健康診断や海外派遣労働者の健康診断、特殊健康診断の特別の項目についての健康診断を受けた者は、該当の健康診断実施日から1年以内であれば、同じ検査項目に関しては定期健康診断を省略することが可能です。

Q5.雇入れ時健康診断の健診機関はどのように探せばいいですか?

雇入れ時健康診断の健診機関を探す際には、次のポイントを確認してみてください。

  • 健康診断の実施有無:まず、健診機関が雇入れ時健康診断を実施しているか確認します。
  • 距離:自宅や企業に近い健診機関を選ぶと、従業員の負担を減らすことができます。
  • 金額:費用は健診機関によって異なるため、複数の健診機関を比較し、予算に合ったところを選びましょう。
  • 予約の取りやすさ:予約がスムーズに取れるかどうかも重要です。電話やWebサイトでの予約が可能な健診機関を選ぶと良いでしょう。

これらの要素を考慮しながら、従業員に適した健診機関を見つけることが大切です。

6.雇入れ時健康診断のスムーズな実施を進めましょう

雇入れ時健康診断の実施の流れを理解することは、人事担当者にとって重要です。従業員に対してスムーズに健康診断を実施し、安心して働ける環境を提供しましょう。

【この記事のまとめ】
・新入社員の健康を把握し、適切な業務配置を行うために雇入れ時健康診断の実施が必要
・雇入れ時健康診断は、法令で定められた11項目すべてを実施
・健康診断実施後は、結果を管理し、適切な措置や保健指導を行うことが重要

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企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央/oneself.産業保健師一同


小橋 正樹

監修小橋 正樹

株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医

2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。


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oneself.の代表で現役の産業医でもある小橋が、専門的な知見や現場の経験から得た目線をもとに、企業の健康管理に携わる方々の「こんな情報が知りたかった」に応えます。

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