【産業医監修】産業保健師とは?役割や導入メリット・仕事内容を解説

従業員の健康管理や快適な職場づくりなどにおいて重要な役割を果たす「産業保健師」をご存じですか?名前は聞いたことがあっても、具体的にどのような業務を担当するのか、イメージがわかない方も多いかもしれません。企業に選任義務はありませんが、産業保健師はこれからの企業運営に欠かせない存在です。

この記事では、産業保健師の役割やメリット、具体的な仕事内容について詳しく解説します。産業保健師の活用方法について、一緒に考えてみましょう。

1.産業保健師とは

保健師助産師看護師法第2条によると、保健師は「保健指導に従事することを業とする者」と規定されています。保健師の多くは保健所や保健センターで働く行政保健師ですが、そのうちの企業内で働く保健師のことを産業保健師といいます。

産業保健師は、看護・公衆衛生・労働衛生の知識を併せ持ち、従業員個人だけではなく企業の課題解決も支援する専門家です。

  • 看護:健康診断や保健指導などの日々の関わりを通して、従業員の健康課題だけでなく、価値観・生きがい・生活背景など、さまざまな角度から個人を捉え、意思決定をサポートする
  • 公衆衛生:健康問題を疫学的※1に把握し、組織・集団へのアプローチを行うことで病気の予防や健康の維持増進をサポートする
  • 労働安全衛生:労働安全衛生法に基づき、労働衛生の5管理※2の視点から企業の課題解決に向けた働きかけを行う

※1:疫学とは特定の人間集団の中で出現する健康障害や病気などの発生頻度や要因を明らかにすること。  ※2:労働衛生の5管理とは作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育、総括管理のこと。

産業保健師はこれらの専門性を活かして情報整理を行い、関係者を繋ぎ、個人だけでなく企業の意思決定もサポートします。そして、従業員の健康管理や職場環境の改善、より良い職場文化の形成、さらには社会全体に貢献する幅広い支援を実施できるような仕組みづくりもサポートしていきます。

2.産業保健師と産業医の違い

産業保健師と産業医、それぞれの役割や専門性について理解することは、企業の健康管理体制を強化する上で非常に重要です。ここでは、産業保健師と産業医の違いについて説明します。

産業医とは、事業場において労働者が安全・健康・快適に働けるよう、専門的知識に基づいて職務を行う医師のことです。

常時50人以上の労働者を使用する事業場には、産業医を選任する法的義務があります。産業医の業務は健康診断結果からの就業判定・事後措置や長時間労働者との面接指導など多岐にわたり、労働安全衛生規則第14条第1項において明確に職務が定められています。

一方、産業保健師については、事業場に選任義務はありません。産業保健師は法的に定められた産業医の職務を担うことはできませんが、産業医の手が届きにくい業務に対して、きめ細やかなフォローを行うことができます

また、産業医よりも従業員に身近な存在として、健康管理や仕事・プライベートの悩みなどの相談窓口として多くの企業で重宝されています​。

出典:『産業保健の現状と課題に関する参考資料(PDF)』厚生労働省 P.41

関連記事:『産業医は何をする人?人事担当なら知っておきたい産業医の基礎知識

3.産業保健師を導入するメリット

令和2年度に実施された事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書によると、産業保健師・看護師を雇用・活用している事業場は、従業員数1000人以上で約8割、300人未満では3割弱でした。

大企業に比べると中小企業では産業保健師の導入が進んでいない現状ですが、産業保健師の導入には多くのメリットがあります。ここでは、企業が産業保健師を導入する利点を3つ取り上げてご紹介します。

出典:『令和2年度 事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書』独立行政法人 労働者健康安全機構 P.64

3-1.従業員個人へのアプローチができる

産業保健師の導入は、従業員の健康管理を支援できる点がメリットです。産業保健師が従業員の健康状態を把握し、病気の早期発見・早期治療に努めたり、保健指導・面談などを通して生活習慣の改善をサポートしたりすることで、従業員の健康の維持・増進を支援します。その結果、従業員の活力向上や生産性の向上が期待できます。

産業保健師は従業員にとって身近な存在で、上司や同僚のような仕事上の利害関係が少ないため、プライベートな問題やメンタルヘルスに関する相談も安心して気軽に行うことができるのも導入のメリットです。

3-2.集団・組織へのアプローチができる

従業員個人の健康の保持・増進は、個人の努力だけでは十分に行えない場合もあります。事業者の経営方針や企業風土、業務内容などが従業員の健康に影響を及ぼすためです。そのため、産業保健師は従業員個人へのアプローチだけではなく、集団・組織へアプローチすることも重要なミッションです。

産業保健師は、経営方針や企業風土を理解し、事業者とも密接に関わります。その関わりの中で企業の健康課題を見出し、解決のために健康施策を提案・支援し、継続的にPDCAを回してサポートしていきます。

例えば、健康診断の有所見率や生活習慣の問診などから集団としての健康問題を分析し、企業にフィードバックすることで、集団への健康施策や職場環境の改善に寄与します。集団・組織の健康課題解決のために産業保健師は欠かせない存在といえるでしょう。

3-3.産業保健の実行支援ができる

出典:『「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」サービスの強み』株式会社oneself.

産業保健師は、産業医と人事労務担当者、従業員とのパイプ役、あるいはコーディネーターとして活躍します。常勤の産業保健師は企業に常駐していることが多いですが、近年では外部の産業保健サービス会社と契約するケースもあります。その場合、産業保健師が定期的に企業を訪問したり、オンラインで常時相談対応ができる体制を整えたりすることができます。

具体的には、従業員や人事労務担当者にとって身近な存在として、日々の相談業務や産業医面談の日程調整などを行います。加えて、健康診断やストレスチェック、長時間労働などに伴う事務手続きやフォローアップなど、専門性が高い業務に対して適切な事務作業を実行支援することが可能です。

産業保健師の導入は、企業全体の健康管理体制を整えて、効率的で効果的な労務管理を実現するために重要といえるでしょう。

4.産業保健師の仕事内容

産業保健師は、産業医とともに企業の方針に基づいて、企業・従業員に関わっていきます。産業保健師の仕事内容は多岐にわたりますが、本コラムでは以下の8項目について解説します。

産業保健師の仕事内容
1健康診断と保健指導
2治療と仕事の両立支援
3メンタルヘルス対策
4過重労働対策
5緊急時の応急処置
6安全衛生への取り組みのサポート
7地域保健との連携
8健康経営への取り組み

出典:『産業保健師がいること(PDF)』神奈川産業保健総合支援センター

4-1.健康診断と保健指導

産業保健活動における業務の1つに、健康診断の企画立案・実施と保健指導があります。

【健康診断】

産業保健師は、受診率が100%になるように各種健康診断(一般健康診断や特殊健康診断など)の実施体制や実施内容を検討し、日程調整や管理を行うなど、健康診断が効果的かつスムーズに実施できるように支援します。

健康診断結果で異常所見があった場合には、従業員個人へのフォローアップに加えて、職場が適切な作業管理や作業環境管理、業務上の配慮などの必要な調整ができるようにサポートも行います。

また、予防的側面としては、異常所見がなくても、健診データが前回と比較して変化している人や生活習慣の改善が必要な人などに対して保健指導を行い、病気の発症や重症化の予防に努めることもあります。

【保健指導】

保健指導では、従業員自らが健康状態を認識して実行可能な予防行動を取れるように支援します。従業員の気持ちを傾聴し、アセスメントに基づいたフィードバックや必要な情報を提供することで、行動目標の設定や目標達成に向けたサポートを行います。なお、保健指導は一回実施したら終わりではなく、継続的なフォローが不可欠です。

その他にも、健診結果の分析に基づく健康教育・啓蒙活動の実施や職場環境改善に関する提案も行います。

関連記事:『雇入れ時健康診断とは?受診時期や費用負担・実施の流れを解説

4-2.治療と仕事の両立支援

病気を抱えている従業員や治療をしながら働く従業員を支援することは、人材確保や従業員の生産性向上にもつながるため、企業にとって重要な課題のひとつです。治療を必要とする従業員が働きやすい職場づくりをしていくことを「治療と仕事の両立支援」といいます。

産業保健師は治療と仕事の両立支援において、コーディネーターの役割を担います。従業員が働くことで受診できなかったり、病気が悪化したりしないように就業上の配慮が必要か情報収集し、必要に応じて産業医や主治医と情報共有・連携します。

職場環境の調整について、人事労務担当者と従業員双方で話し合い、企業として対応可能な配慮を検討できるように支援していきます。また、治療と仕事の両立支援に対して、職場での理解が進むように啓発活動を行うこともあります。

4-3.メンタルヘルス対策

近年、従業員の心の健康を守ることは、企業において非常に重要な課題なため、産業保健師は、従業員と企業の双方にアプローチをしていきます。

従業員個人には、ストレスチェックや面談、セルフケアの研修などを通して、従業員が自分自身のストレスに気づき、ストレスに対する知識や対処方法を身につけて実践できるように支援します。産業保健師には守秘義務があるため、緊急対応が必要な場合を除き、面談などで話した内容を従業員の同意なく上司や人事労務担当者に話すことはありません。産業保健師は、安心して相談できる身近な医療職といえます。

また、組織全体への支援としては、人事労務担当者からの相談対応をはじめ、職場のメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案の役割を担うこともあります。 

例えばストレスチェックを通して、従業員が抱えている問題や職場環境による問題など、ストレス要因の現状を把握して分析・評価します。結果が高ストレス判定だった場合は産業医と連携して、必要な措置の検討や、集団分析結果に基づく職場環境改善の支援を行います。

関連記事:『【産業医監修】ストレスチェックとは?目的や実施方法・注意点を解説

4-4.過重労働対策

メンタルヘルス対策と同様に、企業において重要な課題になっているのが、過重労働対策です。長時間労働は脳・心臓疾患の発症に関連があるといわれており、予防には十分な睡眠時間や休息時間を確保する必要があります。産業保健師は健康障害を予防するために、産業医とともに長時間労働者への対応や面談ルールについて企業と検討し、残業時間の削減を職場に働きかけます。

例えば、残業時間が月80時間を超えて本人から申出がある場合など、法令で定められた長時間労働者への面接指導は産業医をはじめとした医師が行いますが、それ以外の面談は企業でルールを定めて産業保健師が実施するなどの対策を講じます。

保健師面談では、勤怠・ストレスチェック結果や過去の健康診断結果などをもとに話を聴いて健康状態を確認し、従業員自身が実行可能な残業時間の削減方法や、睡眠・休息時間のとり方などについてアドバイスを行います。

他にも、面談結果を産業医と共有し、職場や人事労務担当者にフィードバックを行ったり、必要に応じて産業医面談につなげたりすることもあります。

4-5.緊急時の応急処置

産業保健師は、職場に起こりうる災害や緊急事態に備えて、緊急時の連絡体制や対策などを整備する役割を担うことがあります。また、緊急時の対応が一段落した後は、起こった原因が労働災害関連かなどを調査・検討し、必要に応じて対応策を考えていきます。

企業に常駐する産業保健師は、救急対応に必要な備品の管理や緊急時に備えた訓練、緊急時には心肺蘇生法などの応急処置の実施などを行う場合もあります。

4-6.安全衛生への取り組みのサポート

産業保健師は、健康教育や職場巡視の同行、衛生委員会への参加などを通して、企業の安全衛生への取り組みをサポートします。

健康教育は、従業員が健康について正しい知識を知り、自ら健康的な生活が実践できるようにサポートすることが目的です。産業保健師は、健康教育のテーマに沿って企画・立案し、講師として従業員に指導を行うことがあります。

テーマの例は、食事・運動やメンタルヘルス、食中毒や熱中症をはじめ、生活習慣に関するものや季節性のテーマなど多岐にわたります。

出典:『健康教育とその実践(PDF)』労働者健康安全機構

産業保健師は、職場巡視に同行したり、衛生委員会に出席したりする法的義務はありません。しかし、産業保健師の専門性を活かして職場環境の改善や従業員の健康管理に取り組むためには、職場巡視の同行や衛生委員会の参加が望ましいでしょう。

関連記事:『【産業医監修】衛生委員会とは?設置基準やメンバーと役割・進め方を解説

また、保健師は第一種衛生管理者の知識を有しており、衛生管理者の役割を担うことができます。職場で衛生管理者に選任された場合、職場の衛生基準の調査や改善、作業条件の見直しなど、従業員の健康保持・増進に関する事項を幅広く担当します。

ただし、主たる衛生管理者は専属である必要があるため、選任の際にはその点に注意が必要です。

関連記事:『【産業医監修】衛生管理者とは?選任基準や種類・業務内容・資格概要を解説

4-7.地域保健との連携

地域保健では、乳幼児から高齢者までの住民を対象に、健康的な生活を目指したさまざまな健康管理・保健サービスが提供されています。産業保健師は地域にある社会資源についても理解し、産業保健のみでは解決できない場合に、地域と連携することもあります。

例えば、従業員から「家族で介護が必要になりそうな人がいるが、どのように対応したら良いかわからない」と相談があった場合に、地域包括支援センターへの相談を勧めるなどの対応を行います。

出典:
産業保健師がいること(PDF)』神奈川産業保健総合支援センター
『産業看護学 第2版』河野啓子著 日本看護協会出版会

4-8.健康経営への取り組み

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践することです。企業が従業員の健康の保持・増進に関わることで、経営面においても成果が期待できるという考えがベースにあります。

健康経営において産業保健師は、具体的な施策の支援にくわえて、健康経営の企画立案にも深く関与します。とくに、課題の把握・分析や支援内容の選定、目標設定といった企画面での貢献が大きいです。

専門知識を持った産業保健師や産業医が、企業の健康課題に対して最適な解決策を提案・支援することで、健康経営の方針や施策がより的確かつ効果的なものになるでしょう。

関連記事:『【産業医監修】今さら聞けない健康経営とは?中小企業が取り組むメリットや進め方を解説

5.産業保健師の導入方法

産業保健師の導入方法は、以下のようにさまざまな選択肢があります。

  • 直接雇用:企業やグループ企業の従業員として産業保健師を直接雇用する方法
  • 派遣契約:派遣会社を通じて産業保健師を派遣してもらう方法
  • 業務委託:外部の専門機関や開業保健師、健診機関などと契約する方法

どの契約形態が最適かは、企業の規模やニーズ、予算に応じて検討する必要があります。

株式会社oneself.の「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」では、保健師と産業医が連携し、専門チームで健康管理の伴走サポートが受けられるサービスを提供しています。月1万円から手軽に利用できるため、契約形態に迷った際には検討してみてはいかがでしょうか。

出典:『令和2年度 事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書(PDF)』労働者健康安全機構 P.55

6.産業保健師になるための要件

出典:『保健師 就業するには?』厚生労働省 職業情報提供サイトjobtag

産業保健師になるためには保健師免許が必要です。保健師免許を取得するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 看護師免許の取得:保健師になるためには、看護師国家試験に合格し、看護師免許を取得することが必須です。
  1. 保健師養成課程の修了:看護系大学院で2年間、または看護大学・短期大学専攻科もしくは保健師養成所で1年間、必要科目を修了する必要があります。ただし、すでに4年制の看護系専門学校で看護師・保健師統合カリキュラムを履修した者は、改めての履修は不要です。
  1. 保健師国家試験の合格:受験資格を得たら、保健師国家試験に合格することで保健師としての資格を得られます。

なお、大学の看護系学部・学科や統合カリキュラムを採用している看護系の専門学校に通って看護師・保健師を同時に取得する方法や、先に看護師の資格を取得したのちに保健師要請課程のある学校などに入学して保健師を目指す方法が一般的です。

カリキュラムの内容や通学が必要な年数は、教育機関により異なるため、受験を目指す場合は各教育機関の情報をご確認ください。

出典:『保健師国家試験の施行』厚生労働省

7.企業の健康管理を担う産業保健師を活用しましょう

産業保健師は、従業員に最も身近な存在として、企業の健康管理を担う重要な役割を持っています。産業保健師の役割とメリットを理解し、自社の健康経営を推進していきましょう。

【この記事のまとめ】
・産業保健師とは、従業員の健康維持・増進や企業の健康課題解決をサポートする保健師
・産業保健師は、健康診断や保健指導、治療と仕事の両立支援やメンタルヘルス対策など多岐にわたる業務を担当
・産業保健師の導入メリットは「従業員個人へのアプローチができる」「集団・組織へのアプローチができる」「産業保健の実行支援ができる」

株式会社oneself.では、保健師・産業医の専門チームが企業の健康管理を伴走支援する「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供しています。チャットでいつでも相談し放題、産業保健のプロが企業の健康管理をワンストップでサポートします。未来を見据えた健康管理体制づくりのためにも、ぜひご活用ください。

企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央/oneself.産業保健師一同


小橋 正樹

監修小橋 正樹

株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医

2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。


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oneself.の代表で現役の産業医でもある小橋が、専門的な知見や現場の経験から得た目線をもとに、企業の健康管理に携わる方々の「こんな情報が知りたかった」に応えます。

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