【産業医監修】衛生委員会とは?設置基準やメンバーと役割・進め方を解説
「衛生委員会」という言葉を耳にしたことはあっても、具体的な内容や目的についてご存じない方も多いのではないでしょうか。衛生委員会は、職場で働く従業員の健康を守るために設置される社内の機関です。
この記事では、衛生委員会の設置基準や構成メンバー、調査審議事項、実施の流れについて分かりやすく解説します。これから衛生委員会を運営する担当者の方は必見です。
1.衛生委員会とは
衛生委員会とは、従業員の健康を守るため、職場の衛生に関する事項を調査審議し、対策を講じるために設置される社内の機関です。労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者が働く事業場では設置が義務付けられています。
衛生委員会では、事業者と従業員が協力し合って、健康障害の防止に取り組むことが何より大切です。近年では、とくにメンタルヘルス対策の重要性が増しており、新型コロナウイルス感染症予防やテレワークへの対応、受動喫煙防止など、時代によって変動するさまざまなテーマへの対応が必要になります。
衛生委員会は、職場の安全衛生を確保するために不可欠といえます。
1-1.安全委員会との違い
安全委員会とは、従業員の危険を防止するため、職場の安全に関する事項を調査審議し、対策を講じるために設置される社内の機関です。労働安全衛生法に基づき、以下の条件に該当する事業場では設置が義務付けられています。
1-2.安全衛生委員会との違い
安全衛生委員会とは、安全委員会と衛生委員会の機能を統合したもので、職場の安全と従業員の健康を守るため、職場の安全衛生に関する事項を調査審議し、対策を講じるために設置される社内の機関です。
安全委員会と衛生委員会の設置要件をともに満たす場合は、それぞれを別々に設置する代わりに、安全衛生委員会を1つ設置すれば問題ありません。
2.衛生委員会の設置目的
衛生委員会の設置目的は、職場における労働者の健康障害の防止と健康の保持増進に取り組むことです。具体的には、職場の衛生問題を中心に調査審議し、労働災害や職業病を予防します。さらに、従業員の意見を反映させることで、実効性のある安全衛生対策を実施し、働きやすい職場づくりを推進します。
衛生委員会は社内外のメンバーで構成され、業務内容やハラスメント、長時間労働、職場環境の改善など幅広いテーマを扱います。
3.衛生委員会の構成メンバー
衛生委員会の委員は、労働安全衛生法に基づき、次のメンバーで構成されます。
- 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
- 衛生管理者のうちから事業者が指名した者
- 産業医のうちから事業者が指名した者
- 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
また、議長は1の者が担当し、議長以外の半数は、労働者代表の推薦を元に事業者が指名しなければなりません。その他にも作業環境測定士である従業員を指名することも可能です。
衛生委員会の構成員の人数について、法令上の定めはありませんが、上述した1~4のメンバーそれぞれ、最低4人以上で構成するのが良いでしょう。構成メンバーの詳細をそれぞれ解説します。
3-1.議長(委員長)
衛生委員会の構成メンバーには、まず議長(委員長)として、事業の実施を統括管理する総括安全衛生管理者か、これに準ずる者が1人含まれます。
総括安全衛生管理者とは、事業全体の安全と健康を管理する責任者のことです。総括安全衛生管理者は、従業員の危険や健康障害を防ぐために必要な対策を取りまとめる役割を持っています。一定の規模以上の職場では選任が義務付けられていますが、総括安全衛生管理者がいない場合は、同じ役割を持つ者が議長として出席します。
3-2.衛生管理者
次に、衛生委員会には、事業者が指名する衛生管理者の出席が必要です。衛生管理者とは、職場の衛生環境を管理する専門資格で、常時50人以上の労働者が働く事業場では選任が義務付けられています。
衛生管理者は、以下の免許か資格を持っている者であれば選任が可能です。
- 衛生管理者免許を受けた者(第一種・第二種・衛生工学)
- 医師
- 歯科医師
- 労働衛生コンサルタント
- その他厚生労働大臣が定める者
1の衛生管理者免許は、月に1~8回ほど、全国の安全衛生技術センターで受験が可能です。
3-3.産業医
産業医も衛生委員会の構成に必要なメンバーです。産業医とは、職場の従業員の健康管理等を専門とする医師で、常時50人以上の労働者が働く事業場では選任が義務付けられています。
産業医になるためには、医師である上で、労働衛生に関する専門的な研修や実習を受ける必要があります。産業医は、職場環境の改善提案や従業員の面談、作業場の巡視、指導・助言など、職場の衛生管理について事業者を支援する職務を務めています。
3-4.当該事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者
衛生委員会の構成には、労働者側のメンバーの出席も必要です。「事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者」とは、その職場で衛生管理の経験がある従業員を指します。特定の資格は必要ありませんが、衛生管理に関する知識や経験が求められます。
3-5.衛生委員会の構成例
衛生委員会の最低人数は、議長・衛生管理者・産業医・衛生経験を有する従業員の4人となりますが、事業場の規模や部署の数、業種によって適切な人数で構成するのが良いでしょう。
例えば、従業員60人、部署数7つの企業では、以下のような衛生委員会の構成が考えられます。
- 総括安全衛生管理者である議長(委員長)1人
- 衛生管理者2人
- 産業医1人
- 労働組合が推薦した衛生に関する経験を持つ従業員7人(各部署1人)
事業者は、職場の健康障害を防止するために、労使協力して取り組めるメンバーを指名しなければなりません。
4.衛生委員会メンバーの役割と選出ポイント
衛生委員会の構成メンバーには、委員会の中で期待される役割がそれぞれにあります。専門性や経験を考慮して、メンバーを構成することが重要です。各メンバーの役割と選出ポイントについて説明します。
4-1.議長(委員長)
議長(委員長)は、衛生委員会の進行を管理し、意見のまとめ役を務めます。総括安全衛生管理者やそれに準ずる者が選ばれており、事業場全体の安全衛生を統括管理する役割を担っています。選出時にはリーダーシップと公平性が求められます。
4-2.衛生管理者
衛生管理者は、職場の衛生環境を管理し、改善提案を行っている者です。衛生管理者免許や労働衛生コンサルタント資格などを持つ者が選任されているため、専門知識が求められます。日常的な衛生管理業務を行う中で、衛生委員会に実践的な知見を提供することが期待されています。
4-3.産業医
産業医は、労働者の健康管理等を専門とする医師で、健康診断や職場環境の指導を行っている者です。医師免許に加え、労働衛生の専門教育や実習を受けた者が選任されています。衛生委員会でも、職場の健康問題に対する医療的視点や専門的アドバイスを提供する役割が期待されます。
4-4.当該事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者
当該事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者は、衛生委員会において、現場の労働者の視点から作業環境に基づいた意見を提供することが求められています。選出時には、衛生に関する経験や知識が豊富な従業員を選ぶことが重要です。現場のリアルな状況を反映させる役割を担います。
5.衛生委員会の調査審議事項
衛生委員会では、職場の衛生に関するさまざまな事項を調査し、審議します。具体的な調査審議事項は以下の通りです。
1.労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること
2.労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること
3.労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること
4.衛生に関する規程の作成に関すること
5.危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること
6.安全衛生に関する計画(衛生に係る部分)の作成、実施、評価及び改善に関すること
7.衛生教育の実施計画の作成に関すること
8.化学物質の有害性の調査並びにその結果に対する対策の樹立に関すること
9.作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関すること
10.定期健康診断等の結果並びにその結果に対する対策の樹立に関すること
11.労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること
12.長時間労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
13.労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
14.厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は労働衛生専門官から文書により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること
いずれも、従業員の健康を守るために重要なテーマです。衛生委員会では、これらの項目について詳細に検討し、職場の環境改善や健康管理のための具体的な対策を講じます。
6.衛生委員会の流れ
衛生委員会は月1回以上の開催が義務付けられています。実施の流れは次の通りです。
衛生委員会のフローについて、簡単なステップに分けて説明します。
6-1.メンバーを選出する
まずは、衛生委員会のメンバーを選出しましょう。議長(委員長)には、事業場全体の安全と衛生を統括管理する責任者か、それに準ずる者が選ばれます。前段落で解説した通り、衛生管理者や産業医、衛生に関する経験を有する労働者もメンバーに必要です。その他にも、作業環境測定を実施している作業環境測定士資格を持つ従業員を指名することも可能です。
メンバーは事業者の指名によって決定され、労働者代表の推薦も考慮されます。多様な視点と専門知識を持つメンバーが揃うことで、衛生委員会が効果的に実施できるでしょう。
6-2.規則・ルールを制定する
次に、衛生委員会のルールを定めましょう。初めて衛生委員会のメンバーに指名された従業員の不安を軽減し、スムーズな運営を行うために、「衛生委員会規程」のような規程を作成することも有効です。
具体的には、開催頻度や開始時期、任期、委員会に出席できない場合の対応などを明確に設定すると良いでしょう。開催頻度は月1回以上が義務付けられており、「毎月第●週●曜日」と原則を決めておくと、業務の調整がしやすくなります。
6-3.年間スケジュールを定める
衛生委員会では、年度ごとのスケジュールを組んで運用しましょう。定例の議題としては、長時間労働の状況や労災報告がありますが、さらに活性化を図るために、季節に応じたテーマを設定することをおすすめします。
よくある課題として、計画と実行だけを行い、評価と改善が不十分な場合があります。これを防ぐために、事前に衛生委員会のKGIやKPIを策定しておくと良いでしょう。毎月の会議で指標を基に、現場の状況をメンバーで共有し、具体的な対策を講じることが非常に重要です。
6-4.衛生委員会を実施・当月テーマを審議する
衛生委員会当日は、最初に前回の振り返りを行い、定例の長時間労働や労働災害、巡視報告を行います。その後、年間スケジュールに従って、当月テーマの衛生問題を審議します。
例えば、6月には熱中症対策、11月にはインフルエンザ予防などが挙げられます。また、ストレスチェックのルールや健康診断後のフロー、感染症の出社停止基準、アルコールに関する健康問題など、従業員の関心を引き、企業の実情に合ったテーマを選ぶことが大切です。なお、衛生委員会で審議した内容は、議事録を作成し、3年間保管する義務があります。
6-5.次回テーマを検討する
衛生委員会の最後には、次回のテーマを検討します。テーマは、年間スケジュールを参考に、職場の現状や季節に応じたリスク、従業員からの意見や要望を基に決めましょう。また、突発的な問題や緊急の課題があれば、年間スケジュールに関わらず優先することも大切です。
このように、常に最新の状況に対応した衛生委員会を実施することで、継続的な職場環境の改善を図れます。また、次回のテーマを事前に決めることで、各メンバーが次回に向けて準備を整え、より効果的な議論を実現できます。
7.衛生委員会のポイント
最後に、衛生委員会の活動を効果的に行うために押さえておくべきポイントを紹介します。罰則や是正勧告、指導の条件や労働者の意見を聴くことの重要性、マンネリ化を防ぐためのテーマ例などを取り上げます。
7-1.罰則・是正勧告や指導あり
衛生委員会が適切に運営されない場合、労働安全衛生法に基づき罰則が適用されます。例えば、過労死などの重大な労働災害が発生した際に、産業医の未選任や衛生委員会の未実施が確認されると、50万円以下の罰金が科せられることがあります。
さらに、労働基準監督署からの是正勧告や指導が行われたにも関わらず、問題が解決されない場合には、さらなる処分が下される可能性もあります。
7-2.労働者の意見を聴くことが重要
衛生委員会では、安全・健康・快適な職場環境を形成するために、労働者の意見を聴くことが非常に重要です。労働安全衛生規則第23条の2に基づき、委員会を設置していない事業者であっても、安全や衛生に関する事項について労働者の意見を聴く機会を設ける義務があります。
例えば、コロナ禍における濃厚接触者の取り扱いでは、身体的な健康面だけを考慮して全員に在宅勤務をさせると事業が成り立たなくなり、労働者の精神的・社会的な健康に悪影響を及ぼすといった事例がありました。部分最適ではなく、全体最適を導き出すには、現場を知る労働者の意見が必要不可欠です。
衛生委員会は、産業医の意見を聞くだけでなく、労働者の声を積極的に取り入れ、企業全体としての最適解を追求する場であるべきです。
7-3.マンネリ化に注意【テーマ例つき】
衛生委員会は毎月開催されるため、マンネリ化しやすい点に注意が必要です。同じ議題ばかりでは参加者の意欲が低下するため、季節や時期に応じた多様なテーマを設定することが有効です。
次の4月から3月までのテーマ例をぜひ参考にしてみてください。
また、過労死等の労災認定基準の変更など、事業者向けの情報提供も大切です。毎月テーマを変えることで、新鮮な議題を提供し、委員会の活性化を図ります。
衛生委員会のテーマ例は、次の記事で詳しく解説しています。
関連記事:『毎月の衛生委員会テーマの決め方やポイント、年間テーマ例を紹介』
8.衛生委員会を成功に導くための適切な準備をしましょう
衛生委員会の設置基準や目的、メンバーの役割についてご理解いただけましたでしょうか。
【この記事のまとめ】
・衛生委員会は、労使が協力し合って健康障害の防止に取り組む社内機関
・議長・衛生管理者・産業医・衛生経験のある従業員が構成メンバーに必要
・従業員の意見を反映させて、実効性のある安全衛生対策を講じることが重要
株式会社oneself.では、保健師・産業医の専門チームが企業の健康管理をサポートする「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供しています。衛生委員会の設置や運営についても、専門的な支援を行います。チャットでいつでも相談が可能で、産業保健のプロがITの力を活用して質の高いサービスをお届けします。
企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央/oneself.産業保健師一同
監修小橋 正樹
株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医
2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。